以前に読んだ“焔と雪”と同じ作者さんだったので、手に取ってみた一冊。
焔と雪が変化球的なミステリー小説だったので(探偵が探偵としての役割を果たしていない系のミステリー小説)、こっちの本はどんな感じなのかな? と思って読んでいたんですが、結構面白かったです。
これは、いわゆる和風ミステリーってやつなのかな?
幕末から明治にかけての日本を舞台にした和風ミステリー。
なので当然現代ミステリーでおなじみの「指紋」もなければ「DNA鑑定」もないし、現場写真もない。
偶然その場に居合わせた登場人物達の証言と物的証拠(遺体や凶器)から事件の真相に迫っていくっていうのが、なかなか新鮮で面白い。
で、そんな新鮮なミステリーでも相変わらず犯人を当てられなかった私はさておいて。
そういう風な感じのミステリー小説なので、まあ前に読んだ“焔と雪”に似た変化球ミステリーだと思う。
ただ焔と雪のほうは「たったひとりのための探偵」だったけれど、こっちは探偵役が真相を隠すわけではないので(証拠を捏造したりはするけど、それはまあ科学捜査が存在しない世界だからこその推理要素ってことで)、読んでいて「あれ? この真相、なんかおかしくない……?」とならないので読みやすかった。
時代物だけど、そこまで幕末や明治を知らない私でもお手軽に読めるので、歴史が苦手な人でも大丈夫そう。
揺るぎない客観的な証拠が存在しづらい時代だからこそ、外堀から埋めて段々と真相に辿り着いていく過程(そしてその真相さえ下手すると誰かの意志が介在する)が面白い。
いやぁー、現代ミステリーだったら「古びた建物(あっちこっち修繕してるので釘がいっぱいある)なので梁と戸に長い釘を打ち込んで密室にします」とかできないもんなぁ。
この話の時代感だからこそできるミステリーで素敵でした!
で、今回の一冊を読んで思ったんですが。
やっぱり私は、ミステリー小説でも登場人物を好きになるかどうかで、のめり込めるかが変わってくるみたいですね……。
薄々気づいていたけど、やっぱりそうだったか……。
ミステリー小説の醍醐味って謎とトリックだと思うんで、登場人物はおまけでも良くない? とも思うんですが。
そのミステリーを読者のかわりに解き明かしていくのは登場人物なので、やっぱり登場人物に魅力を感じていないと、どうしても読了感がつまらなくなる模様。
その点でいうと今回のメインの登場人物である江藤君と鹿野君は、かなり私好みだったので読んでいて楽しかった。
ホームズとワトソンのような関係性から二人が目指す道の違いで仲違いし、最後には死に別れるまで、十分に堪能させて頂きました。
ただ鹿野君が江藤君を終盤あたりで軽蔑してたのは、「手段のためなら人を貶めることも厭わない」からだと思っているんですが、最終話でその江藤君を鹿野君が殺人を犯してまで引き留める理由が分からなかったんですよね……。
私は鹿野君が江藤君を引き留めたというよりも、「この人が佐賀に戻ったらきっと大きな内乱が起こって人がたくさん死ぬから、ここで思い止まらせよう」って思ってて、自分の自決を含めてここまでやったらさすがに佐賀に戻らないだろうと踏んでいたんじゃないかと思ってます。
でも実際は鹿野君を失った後の江藤君は佐賀に戻って死ぬんですけど。
まあ史実がそうだからそうなるんだけど、佐賀に戻った江藤君の気持ちをちょっと考えてみたくなるのは、少し寂しいからかな……。(鹿野君が命を張って自分を引き留めようとしたのが分かっても我を通そうとしたのか、あるいは鹿野君の死を前に自暴自棄になったのか。この作品での江藤君は、一体どっちだったんだろうなぁ)
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