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【ネタバレ有】人魚が逃げた/青山美智子【初読感想】

この記事は約8分で読めます。

毎度お世話になっているブクログランキングで1位になっているのを見て、「お。面白いのかな」と思って手に取ってみた一冊。
作者さんも初見だし、本を読むときに前評判を確認しないようにしてるんで(初読を堪能したいので、頭の中はできる限り空っぽのほうがいい)、読んでみてびっくりしました。

私が読んできた本のなかで一番といっていいぐらい、やさしい話だ……。

優しさが天元突破してる。

……うわぁー、優しい世界だぁー……(遠い目)。

なんだろ、私が普段読んでる本って、“人が人を裏切り裏切られ、悪霊が跋扈し、死人が嘲笑し、ほぼ確実に誰かが死ぬ話”なので、この本みたいに「ひたすら優しい世界」の本ってはじめて読むかもしれない。

いや初めてなのかな。でも記憶をさらってもすぐに出てこないぐらいには、あまり読まないジャンルだよな……。

なんというか、ひたすらにやさしい話。
やさしいって言葉がまっさきに出てきて、それ以上の言葉を重ねるにしても、綺麗で穏やかな言葉しかでてこないような話。

そりゃあ物語という性質上起伏はあるし、その起伏のなかには「谷」もあって、主人公が落ち込んだり負の感情を抱えるシーンもあるんだけど、そういうのを含めて全体を見渡せば人が絶望するような暗がりはなにもなくて、木漏れ日が降り注いでるような(そして読んでいるときに感じていた負の感情も結局は木漏れ日が作り出す一時的な暗がりに過ぎず、あるのは「光」だけみたいな)話なんだよなぁ。

とりあえず読んでいる私からすると、「う、ま、まぶしい……!」という印象。

面白いとか面白くないとかではなく。
つまらないとかつまらなくないとかでもなく。
そういう感想めいたものを感じるよりもまず、「まぶしい」っていう体感めいた言葉が出てくる、なんか表現に困る作品。

いやもうこれは私の性質みたいなものなんだけど、ぶっちゃけ「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉が似合いそうな本ばかりを読んできた身としては、この作品の「幸せへの道は善意で舗装されている」を体現するような空気感を、なんと表現していいのか分からな。

すっごい読みやすい文章だし。
すっごく優しい展開だし。
つまらないわけではない。
けど、前のめりに「面白い!」ってわけでもない。
そもそもこの本のゆったりとした穏やかな心地いい空気感って、私が抱えている「面白い(ワクワクする。めっちゃ読み進めたくなる)」とは縁遠くて、どっちかっていうとセラピーみたいな雰囲気を持ってる。

読み進めて行くごとに「わー……、平和だなぁ……」って思いながら、眺めてる感覚。

そこにはもちろん死体もなければ不穏もなくて、そりゃあ登場人物達の葛藤や悩みはあるんだけど、それらはほぼほぼいい方向で解決することが作中で約束されている、いやなんかもうめっちゃ平和で穏やかで幸せで、そういう話なんだわ。

その展開が不服というのは、私が単純にこの本との相性が悪かったってだけの話だし、不服ってわけじゃない。だってそういう本なんだから。
不服ってわけではなくて、なんかこう、「平和だなぁー。みんな幸せそうだなぁー」ってぼんやりとずっと眺めていて、登場人物達と私との間にずっと距離感があるような、そんな印象。

というか、主人公達がなにか悩み事にぶち当たるたびに、「いや、ここは××だろ」と不穏なことを考えても、絶対にその展開にはならず、全員が幸せに(もしくは前向きに)生きていこうとするので、自分の心がどのぐらい汚れてるのかがひしひし伝わってくるんですけどね……??

これはマジで相性だと思うんですが、私はどうやら人が死ぬ話のほうが「面白い」って感じるんだなぁーと自覚しました。自分の趣味嗜好をまざまざと理解できたからよかったかもしれない。

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