どうも。
というわけで、以前に同じ作者さんの「中山民俗学探偵譚」を調べていたときにこの本を見つけて、ずっと気になっていました。
いやだって、乱歩さんだし。
乱歩さんが古本屋をやっていた頃の話らしいし。
なんか、めっちゃそそられません……??
そんな感じで読み始めたのですが、私はこの作者さんの本に宿る独特な雰囲気が結構好きみたいです。
この作者さんの本の感想を書くときはいつも困るんですよね。
なにせ、話自体は緩やかな起伏がある感じで、ド派手な展開があるわけじゃない。
エンタメってわけでもない。
強いて言うなら、純文学的な感じ?
目を見張るアクションもないので、感想を書こうとしたときに「あ。このシーン、印象的だよなぁ」ってシーンが思い浮かばない。
かといってつまらないわけじゃない。
むしろ私好みの一冊なので、「じゃあ、なにが好みなんだ?」と考え込んでいると、こんな答えが出てくるわけですよ。
空気感が、好き。
……、いや感想を書く上でめっちゃ困る言葉だな?!
なんていうんだろう。
ページの一枚一枚からその時代(今回でいうなら関東大震災が起こった時代というべきか。私が知らない大正時代の雰囲気)の空気感がじんわりと伝わってきて、「あー……、今は大正時代なんだなぁー」と思わせてくれる感じが好き。
登場人物や地の文の雰囲気が好き。
登場人物達や当時のことを説明しつつ、それぞれの口調や地の文で、大正時代という空気感を作れるの、すごいなと思う。(まあこの本の前に読んだ作品が「大正時代を舞台にしてるけど大正時代の空気感がほぼないな?」という作品だったので、なおさらこの作品が持ってる雰囲気が気に入ったのかもしれないけど)
この空気感が好きなので、最後まで楽しく読みました。
で、以前も感じたけど、この作者さんの本って、ミステリーわけじゃないんですよね。
謎解きが含まれてるから広い意味では「ミステリー」なのかもしれないけど、わっと驚くようなトリックがあるわけでも、作中にヒントが散りばめられていて、読者である私に「読者への挑戦状」を叩きつけてくるわけでもない。
なんというか、会話の中で謎が出てきて会話の中で謎が解かれていく、すらすらとした話なんですよ。
今回特にそう感じたのが、1話目に出てくる源氏物語の下りなんですけど。
源氏物語を知らないとそもそも答えにたどり着けないし、かといって源氏物語にヒントがあるとは作中に語られていないし(古本屋での話だから関係はあるといえばある?)、話の中で乱歩が気づいて答えを提示するので、この本は読者に謎をといてほしいわけではないのだと思う。まあ作者が「読書をする人間は等しく“源氏物語”を読むべし」という人だったら、私は「すみません! 読んでません!!」ってなるんですが。
ミステリーに分類される本が全部読者の謎解きを期待してるのか? となると、そんなことはないと思うけど、特にこの本(というかこの作者さんの本?)は、謎解きを楽しむというより、登場人物達の推理を同じ茶の間でお茶をすすりながら黙って聞いている感じがする。
登場人物達のあれやこれやに耳を傾けて、「あー、なるほど。なるほど。んー、そっかー。そうなるのかぁー」って相づちを打つイメージ。
普段の会話に時々混ざる不穏な話みたいな、日常の中にたまに薄らと非日常が混ざってるような、そんな会話をゆったりくつろぎながら聞いている雰囲気。
この感じがこの本が持つ独特の空気感と(穏やかだけど退屈というわけではない。とても面白いと前のめりにもならないけど、席を外すほどつまらないわけでもない。ちょうどいい居心地の良さでページをめくれる奇妙な感じ)ほどよく溶け合って、結果なんか満足して読み終わる。
私が思う「本当につまらない本」っていうのは、途中で白けてしまったりするものなんですが、そういう気持ちが涌かなかったので、私はこの本が好きなのだと思います。
この独特の空気感、いいなぁー。
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