よくtwitterで目にしていたのと、以前に一穂ミチさんの作品を読んで面白かったので他の作品も読んでみたいなぁーと思って手に取ってみた一冊。
前に読んだ作品が短編小説集だったから「今回は長編だな。どんな感じなんだろう?」とワクワクしながら読んでいたんですが、なんていうか、表現が難しい(褒め言葉)本だった。
身も蓋もなくいえば、上質な百合小説ってことなんだろうけどなぁー。
この本の主人公である結珠と果遠の関係を、「百合」の一言で片付けていいのかはすごく悩む。
読んで! そして感じて!! と言いたい。
そして私に、このふたりの関係性を表現する適切な言葉を教えてほしい。
すごくいいのは分かる。尊いのも分かる。キラキラしてて、「あー、青春だなぁー。かわいいなぁー」って微笑ましくなるし、子供時代のふたりは小動物同士がじゃれ合ってる微笑ましさがあって、見ていてニマニマしてしまう。
この感覚をなんて表現すればいいのか。
決して無償の愛ではないし。
かといって、独りよがりな独占欲でもないし。
愛情とか、友情とか、執着とか、独占欲とか、優越感とか、そういう色んな感情を煮込んで形をなくした物の集合体をひとりの人間に対してひたむきに注いでいる二人の話という印象。
生々しい人間の感情とも言えるけど、結珠と果遠が互いに向ける感情には、読んでいる私が思わず目をそらしたくなるほどの「負」はない。
ひとりの人間を思うときに、「あの子のことが好きだな」って気持ちもあれば、「あの子のことを一番理解してるのは私だ」って感じる事もあって、あるいは「あの子を守ってあげたい」と思えば逆に「あの子を傷つけられるのは自分だけ」って笑うこともある。
その人間のすべてを手に入れたいわけではないけど、でもその人間が自分の中でとても大事。
ひとりの人間が抱え込める感情のほとんどを、たったひとりの人間に向ければどうなるのか? そんな小説にも思えてくる。
こういう感覚を適切に表現する言葉が私には思いつかないんだけど、読んでいくと、この本のふたりの感覚はなんとなく分かるような気がする。(あー、こういう感覚あるよなぁーっていう感じで)
このふたりの関係性を「運命」というならそうだし、出会っても周囲の環境で離ればなれになって、それでもまた再会して、というのも「運命」なんだよね……。
周囲の人間に自分の生存範囲を委ねるしかない子供時代(幼少期と高校時代)を終えて、ようやく大人になり、多少のしがらみこそあれ“ある程度の事は自分で決められるようになった大人”になってから再会したふたりの選択が、一冊の中の半分を占めてるんだよなぁー。
いわば幼少期や高校時代は、「大人に振り回されたから」「自分ではどうしようもできない事情」で離ればなれになるしかなかったけど、大人になると違う。
一緒にいたいと思えばいられるし、側にいる方法なんて山ほどある。
今までのような理不尽な別れを経験する必要はない。
その中でも果遠は離ればなれになる選択するし、それに対してずっと「光のとこにいてね」で置いて行かれる側だった結珠が今回は追いかけてくるのが、すごく綺麗なんだよなぁー。
果遠ちゃんの選択肢がね、なんとなく分かるんだよ。
今まで何度も偶然を重ねて出会ってきた自分にとっての特別な誰か。その人と一緒にいられる幸運に身震いするけど、同時に、今まで自分が経験してきた別れを思い出して、「いつかこの人(結珠)とも別れるときが来るのではないか?」という不安。
だから今までのように別れる。今までのような奇跡が起こることを願って。まあ、結珠ちゃんからすれば「ふざけんな(意訳)」なんだけど。
追いかけてくる結珠はずっと光の中にいるのが印象的。
これって大人になってからは、果遠がどれだけ暗がりのほうへいこうとしても結珠(光)は追いかけてくるって意味にも見えるし、あるいは「光のとこにいてね」って言葉を考えると、結珠にとっての「光」は果遠だから、離れる理由がないって意味にも思える。
すっごいいい本だった。
思えばこの本、特に大きな事件(殺人事件とか)が起こるわけでもなく、終始小さな事件がぽつぽつと起きているぐらいなんだけど(それでもまあ、子供時代の結珠と果遠からすれば人生ががらりと変わるほどの出来事なんだけど)、最後までがっつり読めた。すごいなぁー……。
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