前回の「一目五先生の孤島」の本の終わりに同じ作者さんの本として紹介されていた一冊。
なんというか、その本の紹介が面白そうだったので、手に取って見ました。
ミステリーの皮を被ったホラー爆誕。
ミステリーとホラーのバランスがちょうどよくて、最後まで面白い。
いや、私、ミステリーの皮を被ったホラーはあんまり好きじゃないんですよ。
これまでミステリーとして謎を解いてきたのに、いきなり「実はホラーでした! 今まで推理してきたミステリーはなーんにも意味ないから!!」みたいにされるのは、素直にむかつくわけでして。
でも、この本は面白い。
ミステリーからホラーに変わる一瞬がいいし、バランスもいいし、読んでて面白い。
ミステリー部分はちゃんとミステリーをやってるし、謎も解ける。
なので一見すると、ホラーテイストのミステリーに見える。
というか、ホラー知識を使いつつも、内容はミステリー小説なんだなぁーと思いながら読んでました。
でも終盤を迎えると途端に、「ミステリーはミステリーだけど、その根底にはホラーが渦巻いていて、そして最後はホラーの後味の悪い濁流が全部の余韻を押し流していくスタイル」だと気づく。
で、気づいたときには手遅れ。
濁流に呑まれ、そうして生きて帰れない。
世の中には、「知らないままやりすごしたほうがいい」事はたくさんある。
主人公、死んじゃうしね!!!!
……いや、主人公が死ぬとは思ってなかったので(ミステリーに重きを置いた話だと思ってたので、主人公は死ぬはずがないと勝手に思い込んでましたよ。はい)、唖然としながらページをめくってました。
いやいや、途中までのいい感じのホラーテイストのミステリーはどこいった?!
いやまあ、ミステリーは存在するけど、「生きてる人間が一番怖いんだよ」なホラーで締めくくられるの、なかなかに面白いんですが!
最後の余韻を全部ホラーで洗い流していくのは、濁流なんよ……。
夢も希望もない。なんだったら主人公さえも死んで畑の亡霊になるし、畑の亡霊の数を考えていくと、「あれ……? もしかして……?」と薄ら寒くなるんだけど、この薄ら寒さの中で最後のページが終わるのが、もうホラー。
むしろこの最後の背筋がゾクッとするホラーを味わうために、終盤までのミステリーを読んでいたんだとさえ思う。
私はこういうミステリーの皮を被ったホラー大好きらしい。
いやはや、終盤までのいい感じのミステリー展開のせいで、まさか林原さんと船井さんがグルだとは思わなかったし、途中までヒロイン枠だと思っていたし、最後の最後で実は10年前の犯人だとは思わなかった……。
というか林原さんが10年前の事件の犯人だとすると、神社で女の子の幽霊が出てきたときに後を追いかけていったのって、めっちゃ怖いんですがね……。自分が10年前に殺した女の子の幽霊を追いかけにいくってさ、何大抵の神経じゃないよね……。(いやそもそも並大抵の神経の持ち主は自分の家の畑に自分が殺害した人間の贓物を肥料として撒いたりしないから、そもそも狂ってるんだけど)
読んでて林原さんの推理ってなんかちょっとザルっぽいなとは思ったりもしたんですけど。
でも一目五先生の推理もこんな感じ(トリックのヒントになるような事は作中に書かれないので、読んでいる私が推理できない)だったから、こういう作風なのかな? って気にしてなかったので、結果として推理の緻密さよりも、圧倒的ホラー感のインパクトが爆発してたのがよかった。
この作者さんのミステリーとホラーの塩梅は、読んでて楽しい。
ごちそう様でした!
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