タイトルが気になって手に取ってみた一冊。
「名探偵の有害性」ってすっごいキャッチーな言葉だし、探偵モノを読んでいる身としては「い、一体どういうこと?!」とワクワクでした。
で、読んでみて思う。
この本……、すげぇな……。
いや話は文字通り、「名探偵の有害性」について語る内容なんだけど。
その一方で、色んなギャップが作中に散りばめられていて、それを読むたびに「ぐぅ……、た、確かにそうなんだけど!!」となる感覚が面白い。
名探偵という昔に流行ったものを通して、昔と今を見つめている感じがめっちゃいい。
特に思ったのが、作中にあった「時代の空気が流れて、個人の罪だけ残る」っていう言葉。
すごく心に突き刺さるんですよね……。
昔のドラマや本を見ると、当たり前のように差別用語が出てきたり、思考が入り込んで来るけど、それって個々人の感情というよりは時代背景でそうなっていた、でも今の時代でそれを見てしまうと、「なんでそんなことをするんだろ」ってなってしまう。
例えば鬼滅の刃の無限列車編で「女性専用車両がない」って言ってた人がいたり。
共働きが当たり前の今の時代で、専業主婦になるしかなかった人達を「怠け者」だとさげすんだり。
こういうのって、「時代の空気」でそうしてきたのに時代が変わった途端、「お前は××だろ」って罵られるのってすごい理不尽。時代の空気はその時代に生きてきた人には分からないし、それだって生きる場所によって変わってくるのに、まず誰かを批判するときに「私はこの人の事情を知らないかも知れない」っていう意識が欠けてしまうのが怖い。
この怖さみたいなものがこの本の中には充満してる。
その充満した空気の中で、当時流行った「人の死をエンタメ化する“名探偵”」がやり玉に挙げられて、色々と騒動が起こるわけだけど、それも面白い。
「昔のことを馬鹿にすんなぁ!」って気持ちがわいてくるのと同時に、「で、でも私も今の時代の文化とか価値観を馬鹿にしてない……?」とふと我に返る瞬間の塩梅が素敵。
この本は色んな時代を生きてきた人達の、それぞれの思いが詰まっていて、その思いを「大丈夫だよ」って肯定してくれる作品なのだと思う。
最後まで楽しく読みました!(そしてなんやかんやでくっつきそうな探偵と助手がくっつかずにそれぞれの人生を生きていくっていうのも、「探偵と助手はくっつくもの」っていう私の固定概念をぶっ壊してくれたみたいで楽しい)
というわけで、「名探偵の有害性/桜庭一樹」の感想でした。
この作者さん、実は初読みだったんですが、かなり好きな文体でした。別の本も読んでみようかな。
それでは、次の一冊でまた!
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