んー……。
最初、とっても軽い文体だと思ったんですよ。
軽くてテンポがよくて、読んでいて引っかかりがなくて、読みやすい文体。
その印象がずっと読み終わるまで続いていて、読み終わった時も「なんか読みやすい本だったな」って思って本を閉じたんですが、改めて感想を書くためにパラパラと読み返してみると、あれ? と思う。
この本、想像以上に重たいテーマを扱ってないか……??
自分のために他者を傷つける人達の話。
ここでいう“自分のため”っていうのは、保身だったり自己愛だったりするんだけど、嘘をついて結果的に誰かを傷つける、そういう人達と日常のふとした場面で遭遇していく話。
この世の中は想像以上に悪意がそこかしこに落ちている。
なので読んでいる時も「あー、この人嫌だなぁ」とか思いはしてたんだけど、読み終わると不思議と心の中から抜け落ちていた。そして素直に「読みやすい本」という感想を抱いた。
思えば、読みやすい本っていうのも、本そのものの感想ではあるけど、物語の感想ではないような。
でも、改めて考えてみても、結構エグめの自己保身の話も(バックル外しで赤ちゃんに怪我を負わせた男がその罪から逃げるために痴漢の冤罪をかぶろうとする話とか)あるのに、読み終わった後に心にグサグサと突き刺さるような、しんどい本ではなかったんですよね。
だから、戸惑う。
あれ? 私、なんか見落としてる?? そんな不安感。
軽めの読みやすい文体だから、あんまり気にせずサクサク読めたのか。
あるいは、あくまで主人公が第三者の視点で語っているから、それぞれの悪意ある人達の感情が伝わってこなくて(行動は分かるものの、心理状態はあくまでも推測の域を出ない)、そんなに心に刺さらなかったのか。
酷い話が展開されていても、そこに感情移入できるだけの要素がなければ、心って動かないのか。
改めて読み返してから、なんというか、自分の心の良心みたいなものを疑いそうになったんですが(いや、さすがに人の悪意を羅列しているこの本を読み終わって「なんか読みやすい本だった」で終わるのは、私、どこかヤバくないか?と)、でもやっぱり、読みやすい本だったんだよなぁー。
あんまり人様の感想を読んで安堵することはないんですが、今回ばかりは、他の人もちょくちょく「読みやすかった」「あっさりしていた」と書いていたので、ほっとしました。
大丈夫。私、まだ大丈夫だわ。
というわけで、「嘘と隣人/芦沢央」の感想でした。
自分の良心への疑念は抱いたんですが、とりあえず読みやすい本だったのは確かなので、芦沢さんの他の本も読んでみたいと思います。
それでは、次の一冊でまた!


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