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ホラー読書感想小説

【ネタバレ有】うたかたの娘/綿原 芹【初読感想】

この記事は約14分で読めます。

ルッキズムの世界へようこそ!

いやぁー……、なんかもう、これに尽きるんだけど。

人間の美醜と、その美醜の中で泳ぐように生き長らえる人魚のホラー小説。
短編集なので読みやすい。

で。この話。
人魚が怖いのか、人間が怖いのか、考えちゃうんだわ。

一見すると人魚側の“自分の肉を食わせることで相手の身体を乗っ取り、生き長らえる”という手段の醜悪さに動揺するんだけど、よくよく考えてみると、「めっちゃ美人とはいえ、言葉が通じて人間に見える存在を食べる……?」というおぞましさに背筋がゾッとする。

カニバリズム、あかん。
美しさっていうのは、他人を文字通り殺して食べても手に入れたいものなんだろうか……?

私はこのあたりから、ちょっと考えなくちゃいけない。

まず、人間の肉(まあ相手は人魚なんだけど。食べる人間側からすれば同じ人間)を食べる抵抗感。
解体して、そいで、食べる。……いや、出来るか?
そして、なにより、人を殺す抵抗。

このふたりを乗り越える理由っていうのが、「綺麗になりたい」なのは弱いよなぁー……、人間そんなに美人に憧れてるものなのか……? 人を殺してまで? 人を食べてまで?
でもその美人に挑発されて馬鹿にされて見下されたら、食べるんだろうか……。
多分そこには、「美人になりたい。綺麗になりたい」って思うまでの、色んな感情が混在してて、それをこねくり回して、全部の感情が形をなくした後の漠然とした願望が、「綺麗になりたい」なんだろうな。

そして、それを人間に絶望的に思わせるのが、同じ人というね……。

私は、人魚よりも、人魚を食べる人間の方が怖い。

そして、人魚を食べる人間をそこまで追い詰める、人間も怖い。

素直に、「いや。人魚が生き長らえるプロセス、杜撰だろ」とも思うんですが、でもそれは私がさほど絶望的なルッキズムの壁にぶち当たっていないからかもしれない。
私にはむしろ、最初の話に出てくる人魚の血を飲んで美人になった女の子のほうが不幸に見えた(美人だからといって何もかも手に入る訳じゃないのが、当たり前なんだけど、美人以外取り柄がないという彼女のコンプレックスがひしひし伝わってくる)、結局美人って見た目の話で、中身が伴ってなけりゃあ意味ないような気もするし。

でもな。でもなぁー……。
やっぱ、そう思うのも、私がこれまでの人生の中で、露骨なルッキズムに出会ったことがないからだろうしなぁー……。

例えば、ここ最近の子供達が当たり前にやっている歯列矯正とか。
綺麗な見た目になるための当たり前(と周囲が強制する?)が、まだまだ浸透していなかった時代の人間なのですよ、私は。
私の学生時代にもルッキズムはあったかもしれないけど、そこまで酷くはなかったし。
もしかすると、時代によって受け取り方が違う作品なのかもしれない。

でも作中でも。
人魚の意図する「美しい肉体で誘惑して、人間に自分の肉を食べてもらい、その肉体を乗っ取る」方法で成功してるのって、水族館の話だけなんですよね。
1話目は血を抜かれてるだけだし。
2話目は乗っ取りというより、人魚の血の効果で美人になっても、中身が変わらなければ意味がないって話だし。
最終話については、美人になりたいというよりも、一緒にいたいという願望のほうが強そうだし。

ようするに、この本って人魚というよりも、「とにかく人間が怖い」って話なんだろうな。

というわけで、「うたかたの娘/綿原 芹」の感想でした。
ホラー小説的には人魚って怖いと思った方がいいのかもですが、個人的には、人間が怖い。
……いや、美人になりたいから人の形をした存在を殺して食べるって、もはや正気の沙汰じゃないんよ……。

つまり、美醜というのは、その“正気の沙汰”じゃないことを踏み越えてしまう狂気を秘めてるってことなんだろうか……?

それでは、次の一冊でまた!

花邑がオススメする、次の一冊!

人魚繋がりでこの一冊!
ホラー小説ではなく、どこか残酷で不可解な、人と人じゃないものとの恋の話。

人間怖い! となったのなら、この一冊はいかがでしょうか。
同じ人魚繋がりでも、あたたかさと優しさに溢れた柔らかい短編小説です。

短編小説繋がりということで一冊!

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