本っていうものが、それぞれに物語を詰め込んでいるなら、この本はもう最高の一冊なのだと思う。
唯一無二の独特の世界観が癖になっていく一冊。
世界を巻き込んだ戦争後の倫理観がほぼほぼ壊滅した世界観だったり、吸血鬼だったり、この本の中に漂う背徳感をどう説明したらいいのか分からない。
この空気感がいい。
主人公が誰かに語って聞かせるテイストなのもいい。
ただただ薄暗い。夜の冷たい空気がひしひしと肌に突き刺さってくるような感覚。
決して明るくない世界の話なのがいい。
これはもう素直に、「あの……、読んで貰ったら分かるんですよ……」となるんですよねぇ……。
逆に言うと、読んでない人にこの本を薦める場合どういう風に勧めたらいいのか分からないし、こうして感想文を書いている今でも、どんな風に言葉を選べばいいのか迷ってる。
なのでこの本に興味を持っている人が目の前にいるなら、「とりあえず、読んで」と言いたいんですが、これだけは言いたい。
人体解体ショーはアカン。
いや、違うな。アカンわけじゃないんですよ。
この人体解体ショー、かなり序盤に出てきて、しかも詳細なタッチで描かれるので、「え。ここでグロ? え、マジで??」とかなりびっくりするけど、読み進めて行けばなぜあそこで人体解体ショーが行われていたのか分かるし、主人公がその行為をはじめたきっかけも分かってくるし、全体的に人間の美徳を破壊し尽くした戦争の悲惨さが伝わってくるんだけど、でもあまりに詳細すぎる。
事細かに人間の死体が解体されていく様が描かれている。
なので、多分、このシーンで読む人をふるいにかけてる。
救いなのはこの作者さんの文章の巧みさのおかげなのか、それほど極端にグロさを感じないこと。
でもシーン的には綺麗に死体が解体されているのは事実なので、やっぱりグロい。
私はギリギリ大丈夫だったけど、無理な人には多分無理。
なのでこの人体解体ショーの後からはじまる、思わぬ伏線回収や薄暗い世界観を堪能する行為が難しい人は絶対にいるんだよなぁ……。
この本のさりげなく貼られた伏線を回収していくところや、倫理観が崩壊した世界でどうにか善良に生きていこうとする人間達の物語は素敵なんだけど、人体解体ショーが邪魔をする。必要なシーンなのは十分承知しているけど。
かといってこのシーンがなければ、本の中に漂う絶望感や壊れてしまったものに対しての哀愁が十分に伝わらない。
人間の倫理観として絶対にやってはいけないのが「人を解体して食べる」ことだとしたら、なぜ主人公はその行為をしなくてはいけなかったのか? その疑問を物語の最初に解体ショーと共に投げかけられて、その解答を主人公とともに歩んだ物語の最後に得る。
伏線好きには読んでほしい一冊だけど、でも読めない人もいるだろうからもどかしい。
というわけで、「リストランテ・ヴァンピーリ/二礼樹」の感想でした。
個人的には書籍化する前のタイトルだった「悪徳を喰らう」でも良かったかなと思う。文字通り悪徳がはびこる(死んだ人間を食用目的で解体する、食べる、戦争の犠牲者として子供達が餌食になる。大人だって狂っていく)世界で、それを喰らっていく物語なので。
それでは、次の一冊でまた!


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