というわけで、読了しました。
12月8日がなんの日なのか。
実は私は12月8日が真珠湾攻撃の日だと知らなくて(興味がなかったとも言える)、なんとなく表紙が格好良かったのと、本の帯であさのあつこさんが絶賛していたので、「まあ、あさのさんが絶賛するんだったら面白いんだろうな……」ぐらいの軽い気持ちで手に取ってました。
まず、面白かったと思う。
めっちゃ手放しで「最高!」って思うほどじゃなかったけど、面白かった。
ひらたく言うと、真珠湾攻撃におけるアメリカと日本の諜報活動の話。
誰が敵で、誰が味方か、そもそも敵や味方がどこにいるのか、訳が分からないままに騙し騙されて、話が二転三転と転がりながら、ターニングポイントである12月8日まで転がっていく。
タイトルが十二月八日の幻影なので、まあタイトルからしてすでにネタバレ。
分かる人にはタイトルの時点で、真珠湾攻撃の話だと分かるんだろうなぁー。
ただ私みたいに歴史に疎い人間でも話を読んでいけば、12月8日がどういう日であるかは次第に分かってくるので(話の途中までは伏せられていて、おぼろげながらなんか大変なことが起こるぞって雰囲気がある)、着々と刻んでいくタイムリミットにドキドキする。
冷静に考えると史実では真珠湾攻撃は成功しているので、この本でも歴史が変化することがなければ成功するはずなんだけど、話の途中でスパイだと思われていた人が行方不明になったり、追跡が困難になったりで、「こ、ここからどうやって真珠湾攻撃が成功するの?!」となっていくのが面白い。
さりげなく歴史的事件(私があとで確認した限りだと515事件とか)にも言及してるので、戦前の歴史に詳しい人が読めば、私が気づかなかった小ネタにも色々と気づけそう。
そして、どうやって相手を欺くか、どんな小道具を使って情報を伝達するか?などなど、歴史的背景(アメリカと日本が本格的に戦争を開始する前の緊張感)を脇に置いても、スパイ小説ならではの面白さが詰まってる。
なので歴史に疎い私でも面白かったし。
スパイならではのテクニックが作中で披露されるたびに、「な、なるほど!?」と唸っていた次第です。
ただ強いて言うなら、同じネタ(戦前のスパイもの)を扱った小説に「ジョーカー・ゲーム」があるのが、不運なんだよなぁ……。
これは本当に不運だと思うし、他の作品を持ち上げて「こっちは面白くない」と言い出すのはフェアではないんだけど、テーマが一緒で舞台も一緒でなおかつスパイもので……話の要素が結構被っている(恐らくは話を作る上で参考にしたモノも同じ)と、やっぱり比べてしまう。
むしろなんで同じ題材を選んだの? ってなる。
今回の本はこれが受賞作らしいので、ジョーカー・ゲームを書いた熟練の作家さんと一緒にするのは酷だし、比べてはいけないと分かってるんだけど……、だってやっぱり似てると比べてしまう。
作中に出てくるスパイ養成におけるテストなんかは二つとも同じモノが描かれてるし(サイパンが記載されていない地図と階段の数)、多分ふたつの作品が参考にしたものも同じだろうから、似てくるのは自然だと思うけど、難しいなぁ。
同じテーマと題材で話を作るときに、世間に発売されてる本の中で類似したものがあるかっていうのは、なんかこの大量に本が出回っている時代だと普通に「存在していて当然」なんだけど。でもドンピシャで要素が被っている場合は避けた方がいいのか迷うよね。避けることを良しとしたら、この世界に未だ書かれていないテーマがどれだけあるのかって話にもなるし。かといって、同じテーマを同じ内容でやって比べるのは良くないってなるのも、釈然としないし。
というわけで、「十二月八日の幻影/直原冬明」の感想でした。
ジョーカー・ゲームと比べると見劣りするけど、この本単体で見ればエンタメとしてふつうに面白い作品だったと思う。ただ私が個人的にジョーカー・ゲームが好きなので、やっぱ比べてしまうんですが。
それでは、次の一冊でまた!
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