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1月読了読書感想小説

【ネタバレ有】殺人出産/村田沙耶香【初読感想】

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「10人産めば1人殺してもいい」というショッキングな売り文句が気になって手に取って見た一冊。
twitterでも時々読了ツイートが上がってたので、気になってたんですよね。

正しさとはなにか? を考えさせられる一冊でした。

短編が4つ入ってるけど、どいつもこいつも重たい。
そして考えさせられる。しんどい。

で、4つの短編を全部読んで思ったことを端的にまとめると、「正しさ」とは時代が決めるものなんだろうな、ということ。

時代錯誤とはよく言ったもので、一昔前では「悪」とされていたものも、今の時代が「善」といえば「正しい」になる。
歴史に名が残っている殺人鬼達も10人産めば無条件に1人を殺害できるのが、表題にもなっている「殺人出産」の世界の秩序なわけで、その善し悪しを読みながら考える私の倫理観も結局は今の時代背景に影響を受けてる。

だからきっと、絶対的に恒久的に正しいことなんてない。
ひとまずは、自分が生きているコミュニティの中の「正しさ」を規範にして、逸脱しないように生きていくのが、世間一般でいうところの「正しさ」なんだろう。

日常で一人の人を殺せば犯罪だけど、戦争で百人殺せば英雄になれる。
そういう移り変わっていく価値観の話。
その中で当然、生きやすくなっていく人間もいれば生きづらくなっていく人間もいる。
生まれついての殺人衝動がある主人公の姉は「殺人出産システム」のおかげで社会での生存を許された人間だけど、早紀子さんは逆に「殺人出産システム」に違和感を覚えてどんどん生きづらくなっていく人で、それはどちらが悪いというより、そういう価値観の世界に生まれてた結果でしかない。

早紀子さんの求める時代になれば、逆に主人公の姉は生きていけないわけだし。
誰かが生きやすい世界は、誰かにとって生きづらい世界ってことなんだろうなぁ。

産まれる時代は選べない。
殺人鬼が全員戦争のある時代に産まれてヒャッハーしながら生を謳歌できれば、それなりに世界は平穏になるんだろうけど、結局殺人鬼は産まれる時代を選べずに平和な時代にも産まれてくるし、同じように平和主義者が戦争のある時代に産まれることもある。

なので私が思ったのは、「自分の性質と時代の価値観をすりあわせながら、どうにか生きていくしかないんだよなぁー」ってこと。

私は正直、自分の寿命を自分で決められる「余命」の世界がすっごく羨ましいんですけどね!
でも私が生きてる世界では「余命」の主人公が言うような「自然な死」が存在するので、その「自然な死」が自分を殺しに来るまでは、安易に死ねないことになってる。
だから生きるほかない。

それが「正しい」かは分からないけど、でも今の世の中は少なくとも自殺するよりは生きる方が「正しい」ので、死ぬまで生きようとしてる私は「正しい」人間に見えるのかな。

ただ一つだけ。
時代の価値観とか色々言ってますが、「殺人出産」で死亡したチカちゃんの話だけは気持ち悪いと思いました。
チカちゃんの母親が気持ち悪い。
自分の略奪婚の結果、旦那の元婚約者に恨まれて、それで最終的に元婚約者が「殺人出産システム」で自分の娘を殺したっていう事実を、どうして誇れるのかがさっぱり分からない。
自分のせいで娘が死んだのに、何故誇れるのか。
娘のことをなんだと思ってるのか。
殺人出産システムって出生数を増やすための画期的なシステムではあるんだろうけど(人を殺したら問答無用で一生死ぬまで牢獄で出産しつづける刑罰を与えられるように)、その分、個々の命については身内でさえ軽々しいものになってるのかもしれない。

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