相変わらず、男同士の感情を書かせるとなんでこの作家さんはこんなにもエモいんだろ……。
いや、エモいっていうか。
分かりやすい「好き」ではなくて、「好き」にも無数の感情があって、その感情のグラデーションを見ているような感じ?
今回の本も主人公の市村君の無防備っぷりに「いやいや、すげぇな-」って思うし。
その市村君をこき使う橘河さん(でも市村がピンチの時には駆けつけるのでなんやかんやで市村がかわいい様子)とか。
その橘河さんと恋人っぽいから最初は市村に嫌がらせしてるのかなと思っていたら、「いやいや。お前も市村君の事好きなの?!」みたいな仲村さんとか。
主要メンバーの男性陣だけを見ても、この「好き」の解釈が違いすぎるんよ。
いやまあ、「好き」って感情が言葉として表現されてるのは仲村と橘河のふたりで、市村君はあんまりなかった気もするんだけど。
でもこの三人を含める、登場人物達の掛け合いがいい。
この本の特徴で最初は「」がない会話の仕様に驚いたんだけど、読んでいくと、案外誰がいま喋っているのか分かるのですごい。
……いや、小説によっては「」がついていても、「この台詞、一体誰が喋ってるんだろう?」っていうのもあるから、その点だけを見ても長野まゆみさんの文章力のすごさが分かるんだって。
その上で地の文の色気のある雰囲気とか、艶のある比喩表現が相まって、もうなんともいえない世界観を形成している。
「あぁー、これが長野まゆみさんクオリティだよなぁー……。やっぱ長野まゆみさんの本好きだなぁー……」で、落ち着く。
個人的にはボーイズラブじゃなくて、幻想小説。
男同士の愛情とも言い切れない感情の小説なので、ブロマンスとも言いがたいし、適切なジャンル名が思い浮かばないのが悔しい。
いっそのこと、「これ、長野まゆみさんの本なんですけどね?」で通用しないだろうか。無理かな。
正直いうと今回の作品も一回読み終わってから、感想を書くにあたってもう一回読み返したんですけど、それでも分からない部分や不可解な部分は確かに存在してた。
例えば、なんで市村君にうろこがあるのか、とか。
結局市村君と結婚したさゆりちゃんは何者だったのか、とか。
市村君が一度死んでるのは確定だとして、戦時中に亡くなった人なの? とか。
でもそれらの「どうして?」に明確な回答がなくても、「でもまあ、長野まゆみさんの本だからなぁ」となるのが悔しい。
だって、慣れ親しんでいる不可解さなんだもの。
そして「謎」にそこまで執着しなければ、雰囲気だけでなんとなくスルスルと読めてしまうので、もうこれは長野まゆみクオリティなんですよ……。
というわけで、「あめふらし/長野まゆみ」の感想でした。
長野まゆみさんの本をなんとなくボーイズラブと呼びたくない現象に、そろそろ名前をつけたいなぁー。
それでは、次の一冊でまた!


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