ホラー小説における主人公の危機察知能力について考えたい。
ぶっちゃけホラー小説って、主人公が事件に首を突っ込まないと話が進まないわけで。
明らかに「これ、やばそうな展開だな」ってなっても、そこを乗り越えるだけの動機が必要になるんですよ。
リカの主人公だったら、「妻子がいるのに別の女性に手を出した後ろめたさ」だったり。
ぼぎわんだったら、本人の意志に関係なく迫ってくる血筋の因縁だったり。
だとすると、この話の主人公の動機って、弱いなぁー……と思う。
序盤は“怪異研究会を立ち上げた三人のうちの一人が消息不明になって、彼を探そうとする”っていうオーソドックスなもの。
で、知り合いが見つかって、そこから話が転がっていく。
今までの知り合いとはまったく違う様子に驚く主人公、その知り合いの家の異常な雰囲気や母親の様子に怯みながらも、知り合いの母親が渡してきたお菓子を家に帰ってから食べる。
…………、え。なんで?
いや、ここ、最大のミステリーなんだけど。
むしろここ、主人公のやってること自体がホラーでは?
知り合いの家で散々違和感やらヤバイ感じを受けていたのに、なぜ、そこの母親が手渡してきたお菓子を食べる……? あまりに空腹で仕方なかったとしても食べるか?
この後、お菓子の中に異物が混じっていて気持ち悪いホラー展開になるんだけど、薄らと「あー。作者さん、このシーンが書きたかったんだろうなぁー……」っていうのが伝わってくる。
異物混入お菓子自体は、最後の最後で明かされる知り合いの家の闇への伏線に繋がるんだけど。
この「いや、私だったら食べないし。主人公、迂闊すぎるだろ」という興ざめするような空気感が、どうにも話にのめり込めない原因になってるんですよね……。
目には見えない脅威だったら、まあ、「でも知り合いが……」ってなるかもだけど。
物理的な危害(異物混入お菓子)を与えられた上で知り合いを助けるために動く理由が、“大学で研究会を立ち上げたメンバーの一人だから”って、動機が薄くないか?
まあ怪異研究会から怪異現象に合うのは主人公的には大歓迎だったんだろうけど、どうしても読んでいて、そんなに色んな目に遭っているのに知り合いを助けようとする動機が分からないんだよね。
しかも最終的にその動機もなくなって、知り合いをそのままにするし。
個人的にはタイトルの“廃集落のY家”がこの物語で果たす役割(本当に隠したいものを隠すために分かりやすい目標を設置する)と、知り合いの家の闇を繋げているのが秀逸で、ラストで主人公がその事に気づいたときには、「え。まじか!」ってなった。
しかも知り合いの家の闇については、さりげなく伏線が散りばめられているから、読み終わってから感想を書くために読み返して、「あ。これも伏線だったの。あ、こっちもか」ってなるのが結構面白かったんですよ。
でも主人公の行動がなぁ……、お菓子を食べちゃうところとか、動機が薄い点とか、「逃げられる場面はいくらでもあったのに、なんで逃げなかったの?」って思ってしまう。
そりゃあホラー小説なんだから逃げたらおしまいでしょうよ、ってなるんだけど、でもその“逃げたらおしまい”をうまく管理するのも、ホラー小説の醍醐味だろうしなぁー。
というわけで、「廃集落のY家/遠坂 八重」の感想でした。
個人的にはラストの伏線回収が秀逸だったと思う一方で、そこに至るまでの主人公の危機管理の甘さが気になる一冊でした。
あと、続編を書く予定があるのか、ひょっこり出てきたけど詳しい説明がないキャラもいたりして、ところどころに作者さんの都合が透けて見えた気がするのも、気になるな……。
ラストが私好みだったので好きといえば好きな作品なんだけど、積極的に人に勧めようとは思わないかも。
それでは、次の一冊でまた!


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