「それで、作者さんは一体どうしたかったのかな?」が、読み終わった後にちらつく話。
この作品を読んで、結構肩透かしを食らった人、いると思うんですよね……。
うん。私も、そのうちのひとりなんですが。
生活の保障をするかわりに労働の一切を禁止するという扶助団体を中心とした、ミステリー小説。
ただ、この扶助団体が話のメインというよりは、扶助団体が持つ特異性や社会的影響を背景に事件が起きて、それを解決していく感じ。
なので微妙に、ミステリーと噛み合っていない感じがする。
私は扶助団体に入った人と社会の軋轢とか、葛藤とか、そういうものが読みたいと思ってたのに。
読み始めたら本格ミステリーをお出しされて、「……ん?」となる。
でも作者さんは、ミステリーの注目株の方らしいので、知ってる人はこういうものだと分かってたんだろうか。
「このミステリーを書くのに、この奇抜な扶助団体の設定は必要だったのかな? それとも、作者さんは扶助団体の話を書きたかったけど、それだけじゃ重たい話になるから、ミステリー仕立てにしたのかな?」と、色々悩みながら読了してました。
ちなみに読み始めた頃はミステリー小説というより、“生活は保障する。ただし労働は禁止する”っていうキーワードが物凄く輝いて見えて、「え。どんな話なんだろ?!」とワクワクしてたので、そこまで扶助団体が食い込んでくる話じゃないと分かってからは、「あー……、うん」って感じ。
一応作中では扶助団体が登場した事による社会への影響とか、扶助団体が崩壊した後の話も描かれていて、世界と扶助団体の物語もあるにはあるんだけど、その説明もどっちかっていうと世界観説明になっているから、ますます「このミステリー小説を書くのに、この設定は必要だった?」って感じなんですよね。
ただ本の中に登場するトリックは本格的なものなので、ミステリー小説が好きな人は楽しいと思う。
うん。トリックはすごかった。
私はトリックを暴くのが苦手な人間なんだけど、トリックが解明されて、「おおー、なるほど!!」となる、本格的トリックでした。
だからこそ余計に、微妙に社会派小説の雰囲気を被ってるのが、もったいないと思う。
というわけで、「HIPS機械仕掛けの箱舟/岡崎琢磨」の感想でした。
社会派小説だと思って読んでいたらミステリー小説だった!! っていうのは、あんまり経験したことがない。
ミステリー小説としては面白かったと思うけど、だったら社会派の印象はもう少し柔らかめにしたほうがよかったんじゃないかな。
それでは、次の一冊でまた!


コメント