ほんのり物悲しく、でもどこか懐かしい。
なんだろ。
日本のおとぎ話というべきか。
話を読んでいると、「うんうん。日本ってそういう感じ。昔の日本って感じがする。懐かしいなぁー」って気持ちにさせられる、不思議な本。
かといって、童話めいてるの? というと、そういうのでもなくて。
本の中にあるものは、「忘れ去られていく者達の息遣い」なんだと思う。
日本ならではのおとぎ話に出てきそうな者達と、そのもの達を現実的に捉えたときの差異を感じながらも、おとぎ話は存在するかもしれないと思わせる何か。
現実的に言ってしまえば、鬼は「時の朝廷に反旗を翻したもの」かもしれないし。
山に住む狒々は山で暮らしていた猟師かもしれない。
でもそういう現実的な目線を通り越した先にある、「でも、鬼はいたかもしれないよ? 狒々もいたかもしれないよ?」が、文章を通じてまざまざと伝わってくる。
なので、日本版おとぎ話みたいな雰囲気。
そしておとぎ話である以上は、いつかは夢から覚める。
現実と夢の境目がはっきりしてきて、現実に有り得ないものは存在しないものとして、生きていく。
でもそれが悪いかと言えば一概に悪いとも言い切れなくて、流れゆく時間の中で進んでいくもの(人間)と取り残されていくもの(鬼や狒々や、人と表現していいのか迷うもの)ができあがって、距離がどんどん開いていく。
その距離の物悲しさと、でも仕方ないよねって気持ちと。
でも振り返ると、やっぱり彼らはそこにいるんだよなっていう、安心感のようなもの。
この本、すっごい難しいんですよね。
書いてることが難しいんじゃなくて、伝えるのが難しい。
ようするにいまじゃ笑い話のような、「川に行くとカッパがいてね」みたいな民話を織り交ぜつつ、それを時代背景でわかりやすく説明して、「カッパなんて実在するわけないじゃん」と思わせつつ、最後にほんの少しだけ「けど……、本当に実在しないの?」って思わせてくる。
私達、ごく普通の人間達がしらないだけで、彼らはいるかもしれない。
この世界にひっそりと息づいてるかも。
そう考えると、ちょっと愉快だなぁーと、思わせてくれる本なんですよ。
というわけで、「幽民奇聞/恒川光太郎」の感想でした。
それでは、次の一冊でまた!
花邑がオススメする、次の一冊!
⇒「振り返れば、もしかすると彼らはいるかもしれない」って気持ちにさせられる近未来を舞台にしたSF小説です。(ただ妖怪とか鬼とはまったく関係のない話です)
⇒妖怪や鬼の類いの話なら、この話が私が好き! というわけで、リストアップしました。
⇒上の馬鹿化かしと同じ作者さんの一冊。こちらも妖怪や鬼の類いの一冊になっています。

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