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読書感想小説

【ネタバレ有】一次元の挿し木/松下龍之介【初読感想】

この記事は約11分で読めます。

紫陽花が咲く梅雨の季節を思わせる、湿度の高いミステリー小説。
人が人を思うこと、その想いがどこまで本物なのか分からなくなる瞬間の絶望感、さりげなく散りばめられた伏線が話を複雑にして、そして最後は綺麗に収束していく満足感。

さりげない伏線がある一点で綺麗に咲き誇って回収される、その様を堪能できるのはすごく嬉しい。

複数人の視点が混じる話だとどうしても視点が混乱しがちだけど、この本に関しては視点が変わるごとに語り手と時間を明記してくれるので読みやすかった。
この親切設計、人によっては「そういうのは書かずに話の中で説明しろよ……」ってなると思うんだけど、私としては明記しなかった結果誰が語り手なのか分からなくなるよりはマシだと思う。

伏線は良い感じに機能してるし、気持ちがこみ上げてくるところはこみあげてくるし、面白い作品だと思う。

だけど、牛尾が納得いかない。

この人だけね。
この人の存在だけ、すごく納得がいかない。

話の展開からいって「主人公を追い詰めていく敵キャラ」なのは間違いないんだけど、途中まで不気味でミステリアスでどこか知性的だった印象だったのに、終盤になって急にただの化け物となってしまったのが、無念で仕方ない。

いや、まじでどうして最後が化け物扱いなんだろう。
最初から化け物として描かれているなら分かるんだけど、終盤で唐突に化け物チックになるんで、理解が追い付かない。
読んでいて、「あ。作者はミノタウルスと牛尾を重ねて、紫陽花の迷路の描写を書きたかったんだろうな」とは感じたんだけど、だからといって、終盤の展開は強引というか、今まで緻密に伏線を重ねて情緒を重ねて進めてきたのに、全部をご破算にする勢いすぎる。

真相を知っている人間達を殺していく牛尾の怖さと行動原理の不気味さにビクビクしていた身としては、最後に物理で主人公を追い詰めていく様子は、「えー……。今までの強キャラ感はなんだったの……」となる。

知性は何処行ったんだよ、牛尾さん……。

いやまあ、序盤から終盤みたいに凶暴性待ったなしだと主人公を見逃す理由がないので(他の登場人物はみんな牛尾に殺されていくのに、何故か真相を追いかけている主人公が牛尾に殺されないっていうのも、すごくご都合主義なんですよね)、最初の頃は話が出来る怪物感が必要だったんだと思うんだけど。

だとしてもなんかもったいないな、牛尾さん……。
だってこの人の生い立ちを見るだけでも(教祖のクローンとして誕生したが跡継ぎになれず、結果的に組織の汚れ仕事をしている)もっと掘り下げられそうなのに、ラストが化け物っていうのは納得いかないなぁー……。

それでいうと主人公が牛尾に殺されなかった理由も、実は主人公も教祖のクローンなのかなって思ってたんだけど、そんなこともありませんでしたね。
このあたりも結局牛尾の気まぐれで主人公が殺されなかったって事になるんで、なんか腑に落ちない。

というわけで、「一次元の挿し木/松下龍之介」の感想でした。

伏線は面白かったんですよ。特に主人公が追いかける妹ちゃんが実は主人公の妄想だったんじゃないかって下りは、「それ!全然想像してなかった!!」ってなったし、妄想じゃないと判明してからの展開も驚きですごく楽しかった。

でもなぁー……、牛尾がなぁー……。
なんというか、終わり良ければ全てよしの逆バージョンというか、途中まではよかったのに終わりが納得いかないって感じですかね。

それでは、次の一冊でまた!

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