緻密で美しい情景描写が読みたいなら、この本を読んで!!
はい。この言葉に尽きます。
とにかく、描写が綺麗。
舞台になる読長町の情景が、これでもかというぐらい美しく描かれている。
そして、物語が進むにつれて、変貌を遂げていく読長町の様子も綺麗。
ただ、そのおかげで、すっごく読むのに時間がかかる……。
そっかぁー……。
情景描写の緻密さや細かさって、同時に読む側の処理能力に負荷をかけるから、読むスピードが遅くなるのか。
意外なほど早く読めた本といえば、私の中では「失われた貌」なんですが、この本は、刑事ものだけど、警察組織の専門用語がほとんど出てこないし、なおかつ会話が多めなんですよね。
今回の「この本を盗む者は」は、専門用語はない(本の世界が具現化されて、その中を冒険する話なので)んだけど、その空気感や情景が多彩な言葉で表現されてるから、とにかく文字数が多い!
情景を飲み込みながら読んでいくので、読む速度も遅くなる。
これの良し悪しは分からないんですが、ただ私は想像以上に読み終わるまでに時間がかかってました。
ただこれは、読む人の気持ち次第なんだろうな……。
さくさくっと本が読みたい人には、圧倒的に不向きな本だと思うんだけど。
じっくりと本を読んでいく人には、楽しめる一冊だと思う。
で、もう一つ気になったのが。
……えー……、ラスト、これでいいの……?
いや、ファンタジーとして考えれば、この終わりはいいのかも。
ただ、この世界における「本の世界が具現化する」原因を作っていたものが取り除かれた後で、物語の住人であった真白やひるねが、現実世界に具現化する理由が分からない。
あれは主人公の深冬が見ていた幻……?? ってわけでもなさそうだし。
主人公の一族にそういう特殊能力があったわけでもないし。
それを言い出すと、中盤の「本の世界が具現化して冒険する!」っていうのは面白かったんだけど、終盤で敵が判明してその敵を追い払う展開で、どうしてああなったのかが分からない。
いや、本当に、どうやってあれで追い払えたんだ……??
(本が盗まれると、盗まれた本の世界が具現化して、そこにいる人間全員が狐化する原理は分かったんだけど。だとしたら、最初に本を盗んだ存在(今回の場合は盗んだというか、盗んだと思わせて唆した存在?)をあの言葉で追い払える理由が分からないというか……。大本の力がそいつなら、そいつの力で追い払える理由が分からないし、なんとも消化不良)
呪い返しされて、追い払えたって事なんだけど。
でも本を盗んでないよね?? あいつ。
唆した人間には呪いは発動しないし……、どういう原理?
情景描写はすごく綺麗だし。
中盤までの世界もよかったけど。
その分、終わりの、微妙に締まらない終わりが気になってくる。
というわけで、「この本を盗む者は/深緑 野分」の感想でした。
この作品、ラストがもっとキリッとした終わり方だったから、「おおー!! 終わった!!」って感じで、すごく面白かったと思うんだけどなぁ。
描写に力を入れすぎて、終わりにまで気が回らなかったのか……?
それとも、深冬と真白の再会を考えると、あのラストになったんだろうか。
んー、やっぱり消化不良だ。
それでは、次の一冊でまた!


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