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鬼の哭く里/中山七里(ネタバレ有)|コロナ禍の嫌な空気感を凝縮した心にしんどいミステリー【感想】

この記事は約14分で読めます。

どうも。
ホラーだと思っていたら、ミステリーで、ミステリーだと思っていたら人間の「負」の部分をぎゅっと詰め込んだ本でした……。

“生を祝う”が想像以上に心にぐさっと来る話だったので、「次はなんか重たくない話が読みたいなぁー」と思ってたはずなのに、こっちもこっちで結構しんどいな……。

戦後直後に実際に起こっていそうな凄惨な事件と令和のコロナ禍の空気感が、とんでもなくヤバイ方向で組み合わさった一冊。

生殖記でもコロナ禍の話が出てきたけど、こっちの「鬼の哭く里」のコロナ禍はまさしく「負」
生々しい「負」。
終始人間の嫌な部分ばかりが飛び出してきて、コロナ禍当時の嫌な空気がこれでもかと凝縮されてる。

ホラーな雰囲気はほとんどなくテイストはミステリー寄りなので、タイトルから「たぶん、ホラー?」だと思い込んでいた私は読み進めていくうちに、「え。これ、ミステリーなの?」って動揺してました

でももっと言うと、この本はコロナ禍の人間の嫌な部分、というか嫌なことを自分とは関係ない人間に押し付けようとする身勝手な部分を書いてると思う。

いやぁー、コロナ禍を思い出したね!

「正直言って、麻宮さんがどんな人で何を考えているかなんてどうでもいいの」
「え」
「麻宮さんがお父さんやご近所からどう見られているかが大事なの。コロナの感染者だと噂されている人に接触すれば裕也も感染したと思われる。(中略)裕也も仲間だと思われる」
「それ、極端だって」
「極端かどうかは姫野村の人間が決めることよ」(P100)

これ、ミステリーなんだよね……? となる、この会話!
こういう会話、コロナ禍でなんか聞きませんでした……?
もしくはこういう雰囲気を感じませんでした……?

私は読んでてすごく、「あぁー……、コロナ禍だなぁー」と思っていました。

私が暮らしている場所は主人公の裕也が住んでいる地域よりは都会だけど、それでもニュースやネットで排他的な空気感をひしひしと感じていたし。
東京から地方に来る人を傷つけていいんだっていう、無言の悪意が渦巻いていたし。
この本、ミステリーだけど、当時に感じ取っていた嫌なものをまざまざと見せつけてくるんですよね……。

お前はコロナを誰かのせいにしてなかった?
罵っていなかった?
冷静に対処できてた?

コロナと村特有の「呪い」が重なった時、人間はどこまで愚かになれるのか?
そしてどこまで冷静に振る舞うことができるのか?
ミステリーなんだけど、コロナ禍の様子がリアルすぎて、そっちにばかり目が行ってしまう。

いや、なんていうかさ。
都会から来た麻宮さん達を敵視してるわりに、
サイドの人間達が自分達のコロナ対策はザルだったり(5人上の飲み会を開いてたり。マスクをせずに怒鳴ってたり)、自分達の行いを改める前に「よそ者」がすべての原因だって決めつける様子とか、ニュースやSNSで見た「都会から来たって理由だけで石を投げる田舎者」なんですよね……。

この本のホラー要素を考えるなら、「呪い」というより、コロナに踊らされてどんどん他者ヘの加害が大きくなっていく一部の村人の様子なのかも。

そして最終的にミステリーの醍醐味で、姫野村で起こってた呪いが解明されるわけなんですが。

洞窟の話が出てきた時点で、「あ、なるほど。つまりは雨風の影響で致死性の有毒ガスが出るとかそういうのか?洞窟がいっぱいあるんだもんな、そりゃあ有毒ガスだろ」と半分決めつけていたら、やっぱり違ってましたね……。

ラストにかけて想像していなかった方面で呪いが解明されるのが楽しい。
呪いだと決めつけていたものが自分達に対処可能な現象だと分かる瞬間の拍子抜けする感じが気持ちいい。

で、台風が過ぎ去ったあとの青空を見上げるような爽快感で話が終わる……!!!とおもってたら、台風が去って青空が見えても、台風の爪痕は残ったままみたいな終わり方。

絶妙な後味の悪さ。
救われたようで救われてない、消えていくことなんて絶対にない苦み。

「この後味の悪さがいいんだよぁー!」となるか、「いやハッピーエンドでもいいじゃん?!」となるかは人それぞれなんだろうなぁ。
私は唖然とした気持ち(裕也くんと同じく途方にくれる思い)で読み終わってました。

でまあ、麻宮さんという都会から来た異物と、コロナ禍という人の嫌な部分を見せつけてくる時代が重なった結果、裕也君が「この村が嫌いだ」「この村を形成する人間が嫌いだ」となったわけで、呪いが科学で解明されて、コロナワクチンが開発されてコロナそのものの脅威が多少薄らいでも、裕也君の心の中に積もりまくった感情までは帳消しにできないんですよね。何故なら村人が異物を排除しようとしたのは事実で、そこに何ら根拠はないと証明されてしまったわけだから。

本が後世に残るとして、この本をコロナ禍を歴史でしか知らない世代が読んだらどう思うのか、ちょっと気になる。

「こんな馬鹿な嫌がらせをしていたんだー」って笑ってくれたらいいけど、もしかすると読んでいる最中の私のように、「うわぁー……、こういう麻宮さんへの嫌がらせをする連中っていそうだよね……」となってそうな予感もする。

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