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12月読了読書感想小説

【ネタバレ有】ツミデミック/一穂ミチ【初読感想】

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twitterか書店のポップで「コロナ禍の物語」みたいな触れ込みがあったので、「あぁ、なるほど?」と思ってそのまま放置してたんですが。
ふと「読んでみたいな」と思ったので手に取った一冊。

コロナ禍の話というよりは、人が抱え持っている闇を覗き込むような話だな……、これ。

ぶっちゃけ、コロナは舞台装置。
もしくは起爆剤? 物語が始まる前のブザーみたいなものだと思う。

コロナ禍の話でまっさきに思い浮かぶのが、「鬼の哭く里」なんですが。
鬼の哭く里で感じたどうしようもない閉塞感と、どんどん煮詰まっていく人間の汚い部分を見せつけられる息苦しさと気持ち悪さみたいなものは、ツミデミックにはあまりないんですよね。

どっちかっていうと、ツミデミックを読んで感じたのは「コロナなんてとんでもない未知のウィルスが蔓延して人類がヤバくなっても、結局人間は人間」っていう気持ち。

コロナがきっかけではあったけれど、殺人を犯すのも人を傷つけるのも、結局は人。
コロナ禍っていうすべての悪事の言い訳に使えそうなワードがあるけど、結局コロナはヤスリみたいなもので、その人の地金(本性)が出てくるまでヤスリをかけまくっただけで、なにをしでかすかはその人次第。

だって、収録されてる6つの話の内2つ(違う羽の鳥・憐光)はコロナ前に起こった事件の話だし。
特別縁故者は、コロナ禍で職を失った男が近所の独居老人の家にタンス貯金があって……っていう、いかにも「お! 空き巣に入るのか?!」って展開なのに、最終的に犯罪を犯さずに老人を助けて救われるって話だし。
最後のさざなみドライブに関しては、なんかもうコロナ禍関係なく人を傷つけたい人間の悪意の話だと思う。(さざなみドライブの犯人? からすれば、コロナを理由に死を選ぶ人が扱いやすいから選んだってだけで、殺す相手は誰でも良かったんだろう。それこそ普遍的にいつでも耳にする「誰でもいいから殺してみたかった」的な動機は、コロナ禍だからこその理由じゃない)

なんか、特別縁故者の存在が私の中での「結論」なんですよね。

悲惨な目に遭って、自分の中で犯罪を犯す動機ができあがっていて、でも道を踏み外さなかった。
ここで特別縁故者の主人公が道を踏み外していたら、「あー……、コロナ禍って酷い時代だったなぁ」で本を閉じるんだけど、彼の話があるからこの本はコロナ禍の気の毒な話で終わらない。

逆に言うと彼の存在が、他の作品(特にさざなみドライブの登場人物達)に対する返答にもなっていて、気の毒ではないけどしんどい話なんだよな……。(道を踏み外さなかったのは家族がいたおかげもあって、道が開けたのも家族と幸運があったからで。誰しもが運良く道を踏み外さないまま歩き続けられるわけでもない。でも彼が“彼”だったから幸運に恵まれたの確か)

コロナ禍は舞台装置で、結局はその人は“その人”なのだと思う。
ただコロナ禍は誰もが地金が見え隠れするぐらいボロボロで、だから普段は善良な仮面で取り繕えている人達も醜悪な一面を見せて、その醜悪さを黙殺できるだけの余裕も周囲にはなくて、どんどん悪循環に陥っていく。
コロナがなければ起こらなかった犯罪はきっとある。
でもコロナが発生する前から起こっている事件もあるので、一概に全部「コロナのせい」にはできない。

まあ、最初からクライマックスみたいに道を踏み外して、そこからどんどん転がり落ちていってる人(憐光の主人公の友人とか)もいるんで、“コロナ禍だったから”で片付けられるシンプルな犯罪ってないんだろうな

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