超絶に面白かった「炎の塔」の続編!
前回は超高層ビルの大規模火災の話でしたが、今回は豪華クルーズ船! 海、そして台風、沈没!! 消防士である主人公と同僚が沈みゆく船の中で、その場に居合わせた乗客乗員達と共に生存を目指す話。
前回は消防士が存分に実力を発揮できる舞台(火災メイン)だったこともあって、ド派手な演出に、最後の最後で登場した塩酸の使い方などなど、とにかくインパクトが強い作品でしたが、今回は前回に比べると地味目。
そのかわり、沈没という巻き込まれれば絶対に助からない絶望のカウントダウンがじわじわと迫ってくるのが怖い!
これは多分「恐怖」の違いなんだろうけど。
前回はまだ陸地にある高層ビルでの火災だったら、「火さえどうにかできれば」って気持ちが読んでいる私にもあったのだと思う(実際には火災だけじゃなくて、熱による建物の崩落とかヤバイ要素はたくさんあるんですけど)。
でも今回は違う。
海、真夜中、台風、浸水。
海難事故でここまでの悪条件ってないんじゃ……? ってレベルの悪条件を全部ぶちこんだような状態で、なおかつ毎度おなじみ“客の安全を保障する立場にあるはずの船長が保身に走る”なんて悪夢も追加される。
最初は事故だった。
でも事故を見過ごせば、それは人災になる。
文字通り、事故が人災に変わる瞬間を見せつけられるような気分でした。
そうなってくるともう自力で逃げるしかない。
偶然居合わせた船に詳しい乗客の知識や、主人公達消防士の手腕が発揮され、一つ一つ難題を解決していく……んだと、そのたびに誰かが怪我したり死んだり、誰が生き残って誰が死ぬのか、まったく想像できない。
その中で、北条さんの生き様がね……。
この人がすごい。
船長が保身に走る中で、乗員側の唯一の良心といっても過言ではないぐらい、すごい。(いや実際は北条さんと一緒に救命ボートを降ろした人達もいるので、良心はもっといるんだけど)
北条さんが今回の海難事故を生き延びていたら、多分前回のトラウマもなんとか克服できて(というか前回のトラウマがあるにもかかわらず、とにかく必死に人を助けようとする彼の姿がとても印象的)幸せになれたかもしれないのに……、と読んでてしんどくなった。
彼が最後に叫んだ「ざまあみろ」って言葉に色々と考えてしまう。
前回の海難事故で助けられなかった命に責任を抱いて押しつぶされそうになっていた北条さんが、今回の事故で自分を奮い立たせて救命ボートを率先して降ろして(彼が降ろそうとしなければもっと乗客が死んでたかも……? って考えるとゾッとする)、その後で主人公達と合流して最後には主人公達を助けて死んでいく。
今回救えるだけの命を救った、自分は過去のトラウマに負けなかった、「ざまあみろ」だったのかなって思うと、この人の生き様が悲しいけどまぶしい。
今回も面白かった。
というわけで、「波濤の城/五十嵐貴之」の感想でした。
前回の炎の塔と比べるとインパクトは弱めかな? と思ったんですが、一つ一つ困難に立ち向かっていく主人公達が素敵でした。
ごちそう様でした!
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