うわぁー、この本、情緒がおかしくなる本だ!
ちょっと不気味さが漂う表紙と冒頭の雰囲気から、「シリアス路線のミステリー小説なのかな?」と思って読んでいたら、ところどころにコミカルな描写が入ってきて、その軽い展開(とは言っても人は死んでるんだけど)に「あ。そっか、この本はミステリー仕立てのエンタメ小説なんだ」となってきたところに、最後、特段の爆弾が投げ落とされるという、とんでもない一冊になっております……。
この爆弾の破壊力によって、エンタメ小説だと思い込んでいた脳みそはぶっ壊れるし。
なんかとんでもなく複雑な心境に陥ってしまうんだわ……。
この「複雑な心境」っていうのが、本当に複雑で。
舞台がフランス革命の嵐が吹き荒れる時代で、平民と貴族の間にはとんでもなく越えられない大きな壁があって、文字通り“生まれ落ちた身分で生き方が決定されてしまう時代”で、この本は自分達の未来を切り開こうとした人間達の話でもあるんだけど。
この時代だからこそ起こった悲劇。
この時代だからこそ育まれた奇縁。
この時代だからこそ生まれた物語……っていう、「この時代」っていう因縁めいたものをひしひしと感じてしまうんだよね……。
作中で起こる事件自体は話の中盤当たりで無事に解決するし、犯人も捕まるけど、本題は事件が終わった後の後日談。
激動の時代の光と影に巻き込まれて誰かが死んでも、時代そのものはずっと動いていき、その中で人が生まれ人が死んでいく。小説の中で描かれる事件も時代の流れの中ではひとつの石ころに過ぎなくて、その石ころによって狂わされた人の人生も、時代の前ではあまりに些細な事になってしまう。
でもその時代に生まれた人間はその時代で生きるしかなくて、その中で最善の道を選んでいくしかない。
なんかそういう、「運命ってとんでもないよな。時代って残酷だよな」っていうのを実感させる複雑さだった。
特定の時代に焦点を当てた作品の場合、私は「その時代だからこそできたトリック」を見るのが大好きなんですが、今回は事件の背景からして「フランス革命が起こる時代だからこそ起こった事件」って感じがする。
んー、この空気感、いいな……。
というわけで、「伯爵と三つの棺/潮谷験」の感想でした。
ジャンル的にはミステリーなんですがDNA鑑定などがない時代の殺人なので、ロジカルシンキングが主になっていて、ストーリーの進展をワクワクしながら読み進めていました。
ハッピーエンドではない。でも流れゆく時代を前にすれば、きっと人生がハッピーエンドだったかどうかなんて、死ぬ間際の本人にしか分からないんだろうなぁー……。
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