自分にとっての当たり前がどこまで他人にとっての当たり前なのか? そんなことを考えさせられる。
「貴方が当たり前だと思っていることは、本当に当たり前ですか?」という、ある意味質問されると一番困る疑問が常に付きまとう話。
当たり前って本当にスルーしがちだし、他人から指摘されてはじめて、「あ。これっておかしいのかも?」って気づくこともあるんですよね……。
今回の話はそんな「当たり前」がテーマだったのだと思う。
住んでいるうちに認識が狂わされる家の住人。
友人がおかしいと思いつつも、その家に行くことをやめられない女性。
話の冒頭と終わりに少しだけ出てくる、血の繋がった家族を無視し続ける家族。
自分の子供を放置する親。
そのうちホラー小説的に怪異が絡んで来るのは、最初の“住んでいるうちに認識が狂わされる家の住人”だけなんだけど(家に行くことをやめられない女性も怪異の影響下にある可能性はあるけど)、いろんな形での「当たり前」が、この作品の中には散りばめられている。
そしてどれも放置すればするほど手遅れになっていくものばかり。
怪異の件はともかくとして、他のものは「当人が“当たり前になってしまっている”ことを自覚して能動的に動くしかない」わけで、ラストで琴子さんがずっと音信不通にしていた妹に会いに行こうとするのがよかった。
手放しで喜べるラストではないけど、でもまだ救いがあるだけいい。
今回の話って、これまでの“人の心のスキマに怪異が忍び込む”ではなくて、“とんでもなく強力な神(人の認識を上書きできるぐらい)がいる家にたまたま住んでしまった人間達の悲劇”なんですよね。
なのでこれまでの話と違って、「こいつが悪い。こいつが元凶」っていうのがない。
ぼぎわんやずうのめは、人の心のスキマが怪異を呼んだけど、今回は最初から神様がその家にいた。
でも、神様自体もバグってはいるけど、めっちゃ悪いことはしていない……と思う。(最初の琴子さん達の悲劇は子ども達が家に不法侵入したのが原因だし)
家やそこに住んでいる住人の異常性に気づきながらも通ってしまった女性(果歩さん)には正直、「い、いや……。あそこまで異常だったら距離置くんじゃないかな。どうして行ったんだろ。その結果、旦那さんが死んだじゃん」ってなるんだけど、決定的に悪いとは言い切れない。(結婚指輪を諦めて、あの家との関わりを絶っていれば旦那さんが死なずに済んだのになぁ、とは思うけど)
このシリーズ、案外夫婦仲の悪い人たちがでてくるので、そんな中で奥さん思い(不器用そうではある)の旦那さんが出てきて、珍しいと思っていたら即殺されたので、うん、「あー……、やっぱそうなるよねぇー」って気持ち。
家を守る神様(ただしバグっているので方法は雑。中の住人が死んだら外から補充するので、外の人間から見ると違和感しかない)と、それを取り巻く人間達の話なんだよな。
というわけで、「ししりばの家/澤村伊智」の感想でした。
最後に琴子さんが真琴さんに会いに行こうとする(会わないという行動を当たり前にしないために)のが、いろんな事情で「当たり前」から抜け出せなくなっていた今回の話の締めくくりとしてよかったです。
それでは、次の一冊でまた!
コメント