ミノタウロスのような怪物が日常的に出現するようになった世界を舞台にしたミステリーもの。
……と聞くと、「おおー。なんか特殊ミステリーっぽい!どんな話なんだろ?!」となったんですが、蓋を開けてみると、ミステリーというよりはSFっぽい話。
SFメイン、ミステリーちょこっと。そこに政治劇をひとつまみ?
ただし小難しくはない。
読んでいて、「あー、なるほど? 多分そういうことか……?」となるぐらいの分かりやすいテイストで軽快に書かれてるので、SFや政治劇って言葉が抱えがちな小難しさは感じなかった。
この本のエッセンスにちょうどいい塩梅で振りまかれる印象。
で、ミステリーもそこまで重たくはない。
いや人死んでるんだけど、なんかそこまで物語の主軸になってる感じがしない。
序盤で殺人事件は起こるけど、主人公が容疑者として疑われるといってもそこまで重要人扱いはされてないし。
警察に疑われているから殺害方法に使われた怪物の出現方法を探してみるかっていうノリで、事件を追いかけ始めるし。
この話、殺人事件がどうのというよりも、神出鬼没な怪物を中心に話がぐるぐると展開していくんだよなぁー。
それがまた面白い。
なので、私はほとんど殺人事件の事を忘れてました。
一応怪物出現のルールが分かったら犯人も分かるんじゃね? っていうロジックなんだけど、でも怪物の正体とか謎がどんどん明かされていくにつれてそっちが面白くなっていくから、殺人事件の事を忘れてしまう。
なんだったら作中の警察官も、正直あんまり殺人事件を重要視してない気配もある。
というか私が読んで思った限りだと、終盤で主人公が犯人を言い当てるまでの空気感は「あれ、なんか殺人事件のこと忘れられてない……?」だった。
なので人は死ぬし犯人は捕まるのでミステリーなんだろうけど、「これって、ミステリー?」ってなる。
正直中盤のめっちゃ強い怪物が出てくるところがハイライト。
いやぁー! 怪物! そうなるよね!! そりゃあそうなるよね!!
なんかもう、めっちゃ強い怪物が出てきた瞬間に笑いが出そうになった。
このまま序盤のノリで“人間単体だと無理だけど複数人でライフル持ちだったら勝てる程度の怪物”は続かんよなぁー、と思っていた矢先での、「めっちゃ強い怪物」だったので、「ですよねぇ!!」って気分。
ここまでお膳立てされて、強い怪物が出てこない訳がない。
約束された勝利の展開というか、もうご期待に添えて満を持してやってまいりました感! そしてあっさりと弱点を見抜かれて退場するまでの様式美。
怪物に全部を持って行かれた感(褒め言葉)があるので、犯人の推理を完全に忘れてました。
ほら、怪獣映画は怪獣が出てくるところが見せ場だから……。
まあ、そんな展開から終盤でようやく序盤の殺人事件の黒幕が分かるわけなんですが。
作中でもそれなりに放置されてたけど、主人公の推理を聞くと「あ。確かに、黒幕はこの人しかいないわ」ってなるのがすごい。
いや、ちゃんと犯人いたわ。
この人しかありえないもん。
これ、怪物の話じゃなかったわ。
私は読みながら「怪物面白いなぁー」ってなってたので、最後の最後まで犯人が分からずにいたんだけど、ちゃんと犯人が誰かを推理しながら読んでた人は案外中盤ぐらいで分かってそう。
なのでミステリーなんですよね……、はい。
私としてはミステリーというよりもSF、もしくはエンタメ小説として推したい作品。
そして怪物が面白いので、身構えずにさくさく読めるのも素敵。
というわけで、「ミノタウロス現象/潮谷験」の感想でした。
この方の本というと前回読ませて頂いたのが「伯爵と三つの棺」だったんだけど、あれはミステリーと歴史の切なさが絡み合ってたんですよねぇ。
今回はミステリーとSFが混じり合ってたって感じなのかな。
前回よりも読みやすかったのは、舞台が現代日本だったからかも。
面白かったです。
ごちそう様でした!
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