夢を叶えるとは、どういうことなのか?
というのを、ご丁寧に鞭でひっぱたかれながら見せつけられる小説。
将棋の世界でプロになった芝と自分の才能に見切りをつけて一般社会で弁護士になった大島、ふたりの視点からなる短編小説集。
最初にお出しされる芝編が、めっちゃ読みづらい……!!
素直に、「……これ、読むのやめるか?」ってレベルで読みづらい。
陰鬱としてて、言葉が延々と続いてて、ずっと芝の感情が続いていて終わりがなくて。
改行が少ないし、息継ぎするのもしんどいし、とにかくひたすら読みにくい。
途中、どうしても読むのがしんどくて、まったく進まなかったんですが、ほぼほぼ根性で読み終えました。
「え。芦沢さんってこんなに読みにくい作家さんじゃないじゃん。どうしたんだ。なんで、こんなに読みにくいんだ。え? ええ??」となりながら、どうにかこうにか読み進める。
そして、芝編が終わって、将棋の世界から抜けた芝の友人・大島の話になるわけで。
めっちゃ読みやすいな!?
私の知ってる芦沢さん、フォーエバー!
そうそう、この読みやすい文体が芦沢さんだよ!
そして、その非常に読みやすい文体で描かれる、“夢を叶えた芝を夢を諦めた大島が見つめる”という構図が、人生だよなぁーと思えてくる。
この構図を描くために、わざと芝編を読みにくくしてた?
思えば、芝編って、情緒不安というか……、思い悩んでいる人の手記というか。
病んでいる人の心を袋小路に閉じ込めたような、ぐちゃぐちゃに書き殴られた言葉のような印象があったんですよね。
そんな芝編と、理路整然とした大島編のギャップ。
一見すると、どっちも勝ち組なんですよ。
小さい頃の夢を叶えて、プロの棋士になった芝も。
夢こそ叶わなかったけど、そこから東大に行って弁護士になった大島も。
どっちも、世間一般から見れば大いに勝ち組で、羨ましがられる存在なんですよ。
にも関わらず、芝を見てるととにかく幸せそうに見えないし。
でもそんな芝を、夢を諦めた大島の視点で見ると、芝がとても羨ましく見える。
ザ・隣の芝生は青い。
貴方がいま生きている道は、誰かが歩きたかった道。……だとは言いますが、まさしくそんな言葉が似合うふたり。
夢っていうか、人生ってなんなんだろうね……。
当たり前だけど、夢を叶えた後にも人生があって。
夢を叶えたとしても、圧倒的な才能がなければ、いつかは夢に押し潰されて芝みたいに苦しい人生を続けることになってしまう可能性がある。
夢を叶えた後で、その夢に押し潰されないためには、夢を叶える以上の圧倒的実力が必要になる。
逆に叶えられなかった夢は、その夢を叶えた相手に対する劣等感や小さな僻みみたいになってしまう。
はたから見れば、大島が芝に劣等感を抱く理由なんてこれっぽっちもないし。
私は、芝よりも大島みたいな人間になりたいと思うんだけど。
でも夢って、すごくキラキラしてて、尊いものに思えるのに、人の人生をいとも簡単に壊してしまえるんですよね……。
というわけで、「おまえレベルの話はしてない/芦沢央」の感想でした。
それでは、次の一冊でまた!
花邑がオススメする、次の一冊!
一軒の家を巡るホラーともミステリーともとれる短編集。
それぞれの登場人物の視点で語られる物語が気に入った人は是非!
芦沢さんの作品の中でも比較的読みやすい一冊です!
人の内面を描いた短編小説集!
ふたりの主人公(乱歩と千畝)の視点で描かれる、歴史イフ小説。
ふたりの視点で激動の時代を堪能できるのでオススメです!


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