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ミステリー読書感想小説

【ネタバレ有】森栄莞爾と十二人の父を知らない子供たち/逸木 裕【初読感想】

この記事は約15分で読めます。

貴方にとって「父親」とはなんですか?

という、森栄莞爾から精子提供を受けた100人以上の子ども達の中から12人が集まり、森栄莞爾を父親として認めるかどうかを議論していく話。

序盤は「森栄莞爾を父親として認めますか?」というテーマで、段々12人のそれぞれの事情や背景が見えてきて、最終的には善意の精子提供者であると思われていた森栄莞爾自身にも闇があり、ハッピーエンドともバッドエンドともいえない雰囲気で終わる。

読み終わって、なんともいえない気持ちになる小説。

人に勧める? って聞かれると、勧められねぇーってなる。
読んだことに後悔はないし、面白かったし、読みやすかったけど。
この後味の悪さ……、心に残るが、この心に残る感じは必要なんだろうか……?

テーマが「親子」「血が繋がっていないということ」「兄弟格差」「遺伝子の宿命」だけど、読んでいて心底不快になることはなかったんですよね。
不快というよりは、「あぁ……、そういうこと、考えちゃうよなぁー」という印象。

この話って、終始裏のテーマが「不都合な真実」なのだと思う。

森栄莞爾の真の目的しかり。
ある意味、優秀すぎる森栄莞爾の遺伝子を受け継ぐことに成功した子ども達の格差しかり。
目をつぶっていればお涙ちょうだいで片付けられる部分を、強引に、血肉を引き裂きながら暴いていく。

愛し合った両親から生まれてきたなら、自分という人間がどんな遺伝子を持っていても、両親の子だからと納得する(納得まではできなくても諦める)ことはできる。
でももし自分が父親の子ではなくて、他の誰かからの精子提供だったら?
親が「じゃあこの人にします」と、父親を選ぶことができたら?
その父親が他にもたくさんの人に精子を提供していて、その子どもの間で格差があったら?

まさに今流行りの親ガチャみたいなものだし、親が自分の子の精子提供者を選ぶときに、当然のように容姿や学歴のいい人を選ぶ(あえて低い人を選ぶはずがないという理屈)ルッキズムをひしひしと感じる。

そして、結局、親子とは切っても切り離せない。

この手の話になると、案外主人公が「それでも僕の父親は僕を育ててくれた人だ」となると思うんだけど(というかそういう展開にするほうが読了感がいいから?)。
テーマが「不都合な真実」だから、そうはならない。
この本の主人公は、話を通して「森栄莞爾は他の誰かが不幸になっても家族を守りたい男だった」ことを理解し、その「家族を守りたい」という感情が自分の中にもあると気づいて、森栄莞爾を父親だと認めるんですよね。
そして、ラストで今まで育ててくれた父親に「これからは父親としてではなく、一人の人間として関わって欲しい(意訳)」って言うわけで。

いや、主人公よ……。お前が怖いわ。
……ようするに、作者は「血は水よりも濃い」をやりたかったって事か……??

主人公の中に森栄莞爾の「家族を絶対に守りたい(守るためならどんな手段を選んでもいい)」という魂が宿っているのなら。
主人公とともに森栄莞爾の過去を探っていくヒロインは「目的のためなら手段を選ばない」一面も持っていて、終盤で明かされる森栄莞爾の異常性(と呼んでいいのかは分からないけど)を着実に受け継いでる子どもなんですよね……。

んー、この本。
シンプルに感動できる本では絶対にないし(むしろドン引きする本だと思う)、ラストもいい余韻が残るわけじゃないし(森栄莞爾からある異常性を受け継いだ主人公があの決断を下したのは運命のように感じるけど、ちょっと育ての父親が気の毒といえば気の毒)、精子提供とか子どもが出来ない夫婦に対しての治療法とかでは勉強になるけど、それはこの小説で勉強することか? ともなるし。

12人の登場人物達の生い立ちや立ち位置を詳細に掘り下げつつ、最終的に森栄莞爾の目的で伏線を張る(といっても勘のいい人なら中盤ぐらいで勘づく)のは面白かったけど。

文章力が凄くて、登場人物の書き分けや展開が面白くて、最後までしっかり読めるけど、感想文を書くのに凄く悩む一冊です。

いやぁー、もう! 主人公が「それでも僕の父親は育ての父親だ」って展開なら、涙腺がゆるむ系のミステリーもの(ただしすぐに忘れそうな感動系)になったんだろうけど、そこで主人公に逆の選択肢をさせるから、後味の悪さが残るんだよなぁー!

でもこの後味の悪さこそがいい作品なのかもしれない。

というわけで、「森栄莞爾と十二人の父を知らない子供たち/逸木 裕」の感想でした。

それでは、次の一冊でまた!

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