伏線回収!!!!
うん。この本のすごさを語るなら、まずはその伏線回収。
なにげない会話やキャラの行動、さらりと出てくる言葉が、後々になって「あ。それってこういう意味だったのかよ!」となる感じ。
伏線回収というと、私の中では伊坂幸太郎さんの重力ピエロが好きなんですが、なんかそれに近いものを感じる。
とにかく伏線の張り方がいい(分かりやすいのもあれば、さりげなすぎて、後になって気づくものもあり)。
そして、読みやすい。
いや、これって結構大事だと思うんですよ。
ミステリー小説で警察ものをやってると、なんかめっちゃ専門用語が出てくる小説が多い。
というか、警察を舞台にすると、階級とか警察内でのゴタゴタとか、やたら難しい言葉や説明がずらりとお出しされて、ザ・警察小説! って雰囲気になってることが多々あるんですが。
この本は、それがない。
それがいい。
主人公は警察官で、登場人物も警察官が多いけど、読んでて「ん? これはどういう……?」と悩むような専門用語は出てこないし、文章が読んでいて頭に入りやすいので、はてなマークが浮かびまくる心配もない。
そして、伏線がいっぱい。
大事なことなので二度言います。
一から十までとにかく伏線だらけなんですよねぇー。
別々の事件だと思っていたものが、徐々に一本の線で結ばれていく。
無関係だと思っていた人、物、場所が、ページをめくるごとに、どんどん繋がっていく爽快感。
こっちは「どこかに伏線があるんだろうな」と思って読んでるわけですが、ふとした場所からにょきっと生える伏線に、「お前! そんなところにいたのかよ!」となる。
そして、最終的に一本の大きな糸になって話が幕を閉じる。
劇的な終わり方ではないんだけど(どっちかというと地味な方)、でも、刑事ドラマってこんな感じじゃないかな。
なんとなく、絶妙に後味が悪い苦み。
事件は解決したけど、ハッピーエンドとは呼べない雰囲気。
これで誰かが救われたのか? って考えると、誰も救われていないんじゃないかな? とさえ思う。
この絶妙な苦みも良し。
読みやすくて味わいやすくて、そして即効性の高いエンタメ的なドキドキ感はないけど、読み終わった後のなんとも言えない空気感。
緻密に作り上げられた作品を読み切った後の達成感、ですよね……。
まあ、だからなんですけど。
この作品の帯にある「どんでん返し」って、書いてない方がいいかなって思うんですよ。
どんでん返しって聞くと、どうしても派手目なパフォーマンスを想像するけど、この本に関しては派手目な要素はないんで。
登場人物達の軽快な会話と、知らない間に貼られては、次々に回収されていく伏線。
この絶妙な伏線具合を堪能する小説で、確かにタイトルの“失われた貌”の正体はどんでん返しなんだけど、こう、どんでん返しって言葉が似合う雰囲気じゃないんですよね。
というわけで、「失われた貌/櫻田智也」の感想でした。
刑事が登場する軽い文体の小説が読みたい、派手目の展開はないけどじっくりと伏線を堪能できる小説が読みたい人にオススメの一冊だと思います。
それでは、次の一冊でまた!


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