当サイトではアフィリエイト広告を利用して商品を紹介しています
書籍

【ぼくがきみを殺すまで/あさのあつこ】戦争とはなにか?

この記事は約4分で読めます。

あさのあつこさんの本は愛読本だし、no.6も全巻読んでるので、あさのさんが書くグロテスクな描写とか、シビアで生々しいストーリー展開はno.6で体験してるから、そんなに抵抗なく読めたんですけど。

この「ぼくがきみを殺すまで」は、no.6とは違う方向性での恐ろしさですよ……。

スポンサーリンク

戦争とはある日いきなり起こるものではない

no.6がある日突然自分が知っていた世界の外側(しかも環境がめっちゃ過酷)に放り出された少年が生き抜いていく話だとしたら、「ぼくがきみを殺すまで」は、だんだんとおかしくなっていった過去の日常を、完全におかしくなった世界から思い出すような話。

そのおかしくなっていく有様が怖い。

でも戦争って多分、そういうもの。

ある日誰かが「戦争します!」って言って戦争がはじまるのではなくて、少しずつ足元が崩れていって、気づいた時には崩壊してて、そのままずるずると戦争がはじまっていくわけでして。

ぐるりと自分の世界がある日突然180度回転するわけじゃなくて、気づかないぐらいの速度でゆっくりと削り取られていく様子が生々しい。

しかも読んでると、ふつうに「あ。これ現実でもきっとあるんだろうなぁ……」っていうシーンが盛りだくさんで、一冊の小説の中に「戦争ってこうやって起こると思わない? おかしいって読者は分かるだろうけど、現実でそれが起こっても「おかしい」って思える?」と、あさのさんから常に問いかけられてる気がします。

希少価値の高い鉱物が見つかったことで、お互いに所有権を主張しだしたり。

一部の民族をあえて悪意ある言い方をしたり。

昔は言葉や気持ちを伝えることをとても大事にしていた人が、戦争を境にそれらを否定するような言い方をはじめたり。

戦争に否定的な立場をとっただけで殺されたり。

フィクションとして読んでても、「ああ、そういえばうちの国も似たようなことやってないかな」って気分にさせられました。

戦争していても「自分らしさ」を持ち続けること

そして「ぼくがきみを殺すまで」は、そんなおかしくなっていく日常の中でも、正気というか自分らしさというか、そういった戦争をするうえで邪魔になるものを失うことがなかった(もしくは失うことができなかった)少年たちの物語なわけでして。

「この民族を憎め」「こいつらは敵だ」と言われても、これまでの経験から純粋に憎み切れなかった少年たちが出てきます。

一方で正気や自分らしさを失っていった少年たちのことも描かれていて、現実だとこっちのほうが圧倒的に多いんだろうなぁ……って思うと、暗い気持ちになりますね……。

作中だとその少年のひとりが戦争の作戦前夜に逃亡しようとして処刑されるってシーンがあるんだけど、まだ子供なのに処刑されるのか……、とか、その子供が作中のはじめのほうで戦争をしている相手に好意的な発言をした子を殴るシーンがあるんだけど、自分が死ぬかもって場面になってはじめて「怖い」って感情を思い出したのかな……。とか。

子ども達が狂っていく様子が生々しいけど、狂っていくというよりは、戦場という特異な場所にカスタマイズされていくって感じ。

でもそういう負のシーンが続く中で、捕虜になった主人公と捕虜を監視する少年との交流や、戦争という最悪な行為の最中でも、人は美しいものをみて感動したり心を揺さぶられることがあるのが描かれていて。

最後のほうに監視役の少年が「おまえの処刑の前に終戦になってもらいたいよ」っていうんですけど、その言葉を戦争中の敵の捕虜に対して呟けるぐらいには、戦争中であっても相手のことを受け入れることができるってわけで。

でも個を失いかけていた少年にとっては、「美しいものを美しいと思える」ってこと自体が絶望的で、単純に美しいと思えるわけじゃなくて。

戦争が終わったよ!! で終わらないのも、あさのあつこさんの作品なんだろうな……。

「ぼくがきみを殺すまで」の意味

で。最後まで読み終わって、気になったのがこれ。

タイトルです。

戦争ものなので主人公が誰かを殺すのか、誰かが主人公を殺すのかって思ってたんですけど、作中だと少年たちは死んでいくけど、主人公が死ぬことはなく(処刑される予定ではあるけど)、むしろ主人公は死のうとしてるところを助けられていて、「ぼくがきみを救うまで、待っていて」と言われてるわけでして。

……あれ。タイトル回収してない……? と最初思ったんですけど、読み終わってから、考えてみました。

このタイトルの意味って、主人公が自分らしさを維持し続けることができた理由(敵になってる民族の少年)、そしてそれによって戦争で正気を保ち続けることになってしまった(他の少年たちみたいに狂うことが出来なかった)から、「ぼくがきみを殺すまで」なんじゃないかな? と。

ただそれだと「きみがぼくを殺すまで」になると思うんだけど……、すごく意味深いタイトルだと思ってます……。

タイトルとURLをコピーしました