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読書感想小説

【ネタバレ有】彼女たちの牙と舌/矢樹純【初読感想】

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本音と建て前っていうのを考えると、この本ってすごいなって思う。

この本の中で描かれている、「本音と建て前」が好き。
4人の主立った登場人物がいて、各章ごとに語り手が変わって、語り手になった人物の本音や行動が描かれていくのがこの本なんだけど。
語り手になる前は無神経なことをいう人だったのが、語り手になった途端に周囲をよく観察している人間性が現れたり。
逆に、自分は頼まれると断れない人間だと思っている人が、実のところ周囲から人に頼りがちな人間だと評価されていたり。

自分が思っている自分と、周囲が思っている自分の評価は違うのは、当たり前といえばそうだけど、それを章ごとに語り手を変えることで表現するのがすごいなぁー……。

そして語り手が変わる群像劇なので、当然、情報の格差もある。

それぞれの登場人物達が持っている情報が違う。
最初は表面的な犯罪の話かと思えば、語り手が変わった途端、実は結構がっつり犯罪に関わっていて。そうして別の語り手になれば、別の犯罪も加わって……、みたいな感じで、語り手が変わるごとに開示されていく新たな真相に、読んでいるこっちは「え? ちょっと待って、ええ」と動揺する。
しかも前の章でいきなり出てきた話題が次の章で明かされて、「あー……、そういう事だったのかぁー……」となるケースも多い。

指摘されれば確かに、「あ。その通りだ」って分かるんだけど。
意外と分からない伏線も多くて、そこがまた面白い。

誰がどんな嘘をついているのか分からない。
嘘とまではいかなくても、どんな事情を隠しているのか分からない。
そして全部の謎と嘘が開示されてようやく、真相にたどり着けるし、たどり着いてから4人の母親達の報復がはじまる。
伏線好きには結構堪らない本なんじゃないだろうか。

強いて残念だなと思った部分をあげるなら、この本、タイトルや表紙を見るかぎりだと、がっつりミステリー小説っぽい感じがしないんですよねぇ。

これは手に取った私自身も思ったことなんですが、どっちかというと、お受験戦争に絡ませた女性4人のドロドロした人間関係の話という雰囲気。
最初の章でも少しだけ犯罪の話が出てくるけれど、まだお受験戦争が主軸っぽく感じる。
なのでがっつりミステリーだと思って読む人よりも、女同士の醜い争いだと思って買う人の方が多そう。

でも、読んでいくと、ミステリーなんですよ……。

むしろ最初の頃に描かれていたお受験戦争が途中からログアウトしてる。
立場や境遇が違う4人の母親が揃うための設定として“お受験”が提示されているようにも見えるし、中盤からは特殊犯罪や闇バイトの要素が強くなっていくので、お受験の気配がほとんどしない。
一応子供を絡ませた母親同士のマウント取りのシーンもあって、女同士のドロドロ感もなくはないけど、やっぱり犯罪に立ち向かっていく母親4人の印象が強いんですよねぇ……。

私は最後まで読めたけど(女同士のドロドロを期待して読んでいなかったし、むしろ伏線が多くて好みの展開になっていったのでむしろ大満足でした)、人に勧めるときにどういうアプローチをしたらいいのか迷う本かもしれない。

というわけで、「彼女たちの牙と舌/矢樹 純」の感想でした。
想像以上に楽しめました! こういう章仕立ての群像劇は面白いな……。

それでは、次の一冊でまた!

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