ヤバイ女が自分のことを自覚するまでの話。
……この話、もうこの結論に尽きると思うんだけど、どうだろうか。
序盤では大人しい主人公がどんどん積極的になっていき、最後の最後にはとんでもない化け物に変貌する話。
これまで色んな本を読んできたけど、「ラストの展開が本当に分からない」という点においてすごく印象に残る作品。
というか最近読み終わったからというのもあるんだろうけど、私のこれまでの読書人生の中で、ここまで最後の展開を予測できなかった本もなかなか存在しない。
ラストはハッピーか、共依存か。あるいは悲劇か。
いやいやそのどれでもなくて、あるのは血みどろ。
ラストが予想外。そして、怖い。
ヤバイ女が出てくる本はそれこそあるんだけど、今回の話みたいに“大人しい女が実はヤバイ人間で最後に本性が目を覚ます”という展開は、私の中ではかなり新鮮。
ラストに辿り着くまでの展開もいいんだよ。
犯人と一緒におでかけしたり、桜を見に行ったり、イチゴ狩りしたり。そんなごくごく普通の女同士の付き合いをしつつ、あっさりと人を殺していく落差。
日常を描きつつ、そこに入り込む“人を殺した”という文章。
ストックホルム症候群? 主人公達はこれからどうなるの? と先が気になっていくにつれて、少しずつ判明していく主人公の正体。
「あー。主人公、多分この刑事さんの誘拐された子供なんだろうなぁ」とか、「ってことは、ずっと孤独だった主人公が最後に居場所を見つけて終わりって話かな? 実は愛されていましたって感じの話?」とか、「そうだとしたらテンプレ……、というかお涙ちょうだいものなのかなぁ」とか思って読んでいたので、ラストで言葉をなくした。
え……、なにこれ。
まさか誘拐されたのが主人公の姉のほうで、主人公が誘拐の主犯(しかも知ってるのは主人公だけ)とは……、想像できんやん!?
ここがめっちゃハイライト。
そして明かされる主人公のヤバさ。
……ヤバさというか、ずっと眠っていた本性が目覚めて、読んでるこっちからすれば「お前! そんなにやべぇ奴だったの?!」と戦慄するしかない。主人公ヤバイ。
刑事の娘=主人公説で話が進んでいた頃は、ほのかに作中に漂っていた物悲しさというか切なさみたいなものが、刑事の娘=主人公の姉が確定した瞬間に消え失せて、底が抜けて奈落に落ちていく感じ。
これまでは周囲に流され、犯人に流され、少しずつ自主的に人を殺しだした主人公が、それでも愛する親がいて親の元へ帰って行くハートフル?な切ない作品の気配を漂わせていたのに、主人公の姉の正体が分かった途端に現れる主人公の闇。
そして気づく。この本、分かりやすい感動もので終わらないわ……。
主人公が親に愛されておしまい? そんな終わり方しねぇわ。
むしろどんどん狂気が溢れだしていくパターンですよ。
闇というか、狂気というか。
今までは犯人との交流やらモノローグで共依存じみたものを感じていて、「あー。タイトル通り、ふたりで一緒に墜ちていく感じかなぁ」って思っていたら、ラストまで見ると墜ちていくのは主人公だけ
しかも墜ちていくのではなく、元々どうしようもなく墜ちていて、それに自覚するという話。
腐っていく話だと思っていたら、元々腐ってましたよー。みたいな。
作中のどこかほのぼのとしたシーンを全部なぎ倒していく勢いでラストが用意されてるから、ヤバイ女が好きな人は読んでほしい。
……ここまで書いといてなんだけど、出来たら前知識なしに読んで、「この主人公、ヤバすぎだろ!!」を共感して欲しいけど。でもここまで読んだならネタバレを踏んでいるわけなので、改めて読んでみて戦慄してほしい。
というわけで、「ふたり腐れ/櫛木理宇」の感想でした。
これ、タイトルが「ふたり腐れ」なので主人公と犯人のことなんだろうけど、やべぇのはどう考えても主人公なんだよな……。(犯人のほうは人間性を取り戻していくので、殺人鬼ではあるけど再生していく話とも言える)
すごい本を読んでしまった。
それでは、次の一冊でまた!
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